「相続させる」遺言の利益の放棄を否定した東京高裁平成21.12.18決定

 「相続させる」旨の遺言により特定の財産を相続するとされた当該相続人は、その特定の財産がいらない場合、その遺言により受ける利益を放棄することができるのでしょうか?

 遺贈の場合、民法986条1項で「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と規定されており、受贈者は遺贈を放棄することができますが、「相続させる」旨の遺言の場合も放棄できるのか争いとなっています。

 この問題につき東京高裁平成21年12月18日決定が判断していますのでご紹介します。

事案の概要

被相続人(平成14年死亡)

相続人は子3名(A、B、C)であり、いずれも都市部に居住しているため不動産の取得は望んでいなかった。

〔遺産〕

①現金・貯金 3500万円

②不動産(農地及び居宅) 800万円

〔遺言〕「不動産を全てAに相続させる」

 Bが遺産分割審判の申立て及び寄与分の申立てをしたところ、Aは遺産分割調停・審判の手続において遺言の利益を放棄する旨述べた。

原審

 不動産も遺産分割の対象としたうえで、おおむね次のとおり分割した。

A:不動産(800万円)と現金・貯金(633万円)の計1433万円

B:現金・貯金(1433万円)

C:現金・貯金(1433万円)

 これに対し、AとBが抗告した。

東京高裁平成21年12月18日決定

「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるものと解される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁、最高裁平成10年(オ)第1499号同11年12月16日第一小法廷判決・民集53巻9号1989頁)。

 本件公正証書遺言は、本件不動産を抗告人Aに相続させることを内容とするものであるところ、その趣旨が遺贈であることが明らかであるとは認められず、これを遺贈であると解すベき特段の事情があることを認めるに足りる的確な資料はなく、さらに、本件公正証書遺言において本件不動産についての承継を抗告人Aの意思表示にかからせたなどの特段の事情があることを認めるに足りる的確な資料はない。

 そうすると、本件不動産の所有権は、被相続人が平成14年○月○日に死亡したことにより、その相続開始時に何らの行為を要しないで直ちに被相続人から抗告人Aに相続により承継されたものと認められる。」

「また、前記のとおり、抗告人Aは、その趣旨はやや不明であるが、本件公正証書遺言の利益を放棄する旨述べているが、上記のとおり、抗告人Aは、被相続人の相続開始時に本件不動産の所有権を何らの行為を要しないで相続により確定的に取得したものであり、本件公正証書遺言が無効であることを主張するものとまでは解されないので、抗告人Aの上記の陳述だけにより本件不動産が被相続人の遺産として遺産分割の対象となる性質のものになるとは解されない。他に本件において同陳述の効力を認めるべき特段の事情があることを認めるに足りる的確な資料はない。

 さらに、抗告人Bは、本件不動産について、被相続人がその不動産全部を抗告人Aに相続させる旨の本件公正証書遺言を有効にしているから同遺言どおりに権利の承継をすべきである旨主張しており、この点にかんがみれば、全当事者間で本件不動産を遺産分割の対象財産である旨の合意が成立している場合であるとも認められないから、やはり本件不動産を同対象財産であるとすることはできない。」

 このように、不動産はAが遺言により取得しているため遺産分割の対象とはならないとしたうえで、A、B、Cに対し現金・貯金(3500万円)を3等分して取得させました。

コメント

 上記高裁決定の考え方によりますと、Aは当該不動産を「相続させる」部分を当然に無効することができず、これを覆すには、相続を放棄するか、相続人全員の合意によるしかないことになります。

(弁護士 井上元)

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