相続放棄は無効として遺産分割手続からの排除決定を取り消した東京高裁平成27.2.9決定

 相続放棄をすれば相続人ではなくなり、遺産分割調停や審判手続の当事者の資格を喪失します。この場合、家庭裁判所は、当事者となる資格を有しない者及び当事者である資格を喪失した者を家事審判や調停の手続から排除することができると規定されています(家事事件手続法43条1項及び258条1項による調停手続への準用)。

 家事事件手続法43条2項では、排除の裁判に対して即時抗告をすることができると規定されているところ、実際に即時抗告により排除決定が取り消された裁判例がありますので紹介します。

東京高裁平成27年2月9日決定

事案の概要

① 抗告人は、亡夫の遺産分割調停事件において、調停に先立ち既に相続放棄の申述が受理されているとして、家庭裁判所から遺産分割調停の手続から排除するとの原決定を受けた。

② その後、抗告人につき成年後見人が選任され、成年後見人から、相続放棄申述をした当時、抗告人は相続放棄の手続を理解する能力を欠く状態にあり、放棄申述は抗告人の真意に基づくものではないから、本件放棄申述は無効であると主張して、原決定の取消しを求めて本件抗告を申し立てた。

決定の内容

 抗告人は、平成23年頃から進行し始めた認知症により、平成26年○月下旬の時点では、精神上の障害は重度となっており、計算や物事の理解力が低下し、知能指数的には8歳程度の状態にあったものであるから、その約1か月半前の本件放棄申述をした同年○月○日の時点においても、基本的に同様の精神状態であったと認めるのが相当である。そして、抗告人は、○医師に対して相続放棄をしていないと述べ、本件放棄申述をしたことを自覚していないことや、抗告人には亡夫の遺産を除くと月額約2万9000円の年金収入しかなく、抗告人の生活をまかなえる状態ではないのに、本件放棄申述の手続では「自分の生活が安定している」ことを相続放棄の理由としており、抗告人自身の経済状態を的確に把握、理解していたものとも認められないこと、抗告人は○○後見人に対して相続放棄書を書いた方がいいと言われたから書いたと説明していること、そもそも、抗告人が亡夫の遺産について本件放棄申述をする合理的な理由が見いだし難いことなどからすると、抗告人は、本件放棄申述に深く関与していたことをうかがわせる○○に勧められるなどして、相続放棄の意味を理解できないまま本件放棄申述をしたものであり、本件放棄申述は抗告人の真意に基づくものではなかったと認めるのが相当である。

 もっとも、抗告人は、○医師が同年○月○日に実施したHDS-Rでは○○点であったことが認められ、○医師の診断と乖離する内容になっているが、○医師は精神科の医師ではなく、同医師が実施したHDS-Rの結果は必ずしも信頼性が高いものではないから、この結果のみをもって直ちに抗告人の能力に問題はないとすることはできない。これに対して、○医師は精神科の専門医であり、しかも、同年○月○日から同年○月○日までの間に4回にわたって抗告人を診察し、必要な検査を行った上で、上記の診断に至っているものであって、その診断結果によれば、抗告人は、本件放棄申述当時、精神上の障害の程度が重度で、特に経済面での理解力は極めて低下した状態にあり、相続放棄の意味を的確に理解することができないまま、家族の求めに応じて本件放棄申述をしたものと認められるから、本件放棄申述は、抗告人において相続放棄の意思が欠けており、無効というべきである。

 また、抗告人は、平成26年○月○日に基本事件(注:遺産分割調停)の手続から抗告人を排除するとの原決定の謄本の送達を受けたこととなっているが、上記の経過に照らすならば、同謄本を抗告人自身が受け取ったとすることには問題がないわけではないし、仮に抗告人自身が受け取ったとみるとしても、抗告人は同年□○の本件放棄申述当時、相続放棄の意味を理解できないくらい重度の精神障害の状態にあったものと認められるから、原決定謄本の送達は、「訴訟無能力者に対する送達」と同視できると解するのが相当である。そうすると、抗告人に対する原決定謄本の送達は、法定代理人に対してされなければ効力が生じない(民訴法102条1項参照)から、原決定に対する即時抗告期間は、○後見人が抗告人の後見人に就任し、原決定を了知した時から進行するものというべきであるが、○後見人は、抗告人について同年○月○日にされた後見開始審判が確定した同年○月○日の4日後の同月○日には本件抗告の申立てをしているから、本件抗告は、原決定に対する即時抗告期間内にされたものとみることができ、適法なものと認められる。

コメント

 上記案件において、亡夫の妻(抗告人)の相続放棄申述書が裁判所に提出されましたが、これは、相続人の1人が相続放棄申述書に署名・捺印させ、相続放棄の手続に関する家庭裁判所からの書類も自分の自宅に送達するように求める書面を提出し、相続放棄の手続が行われたという事案です。

 亡夫の妻(抗告人)には意思能力がないとされて成年後見人が選任されて、相続放棄が無効とされましたが、成年後見人が選任されなければ、無効とはされなかった可能性もあるところであり、相続放棄申述書など重要な書面作成に際しては十分な注意が必要です。

(弁護士 井上元)

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