未支給年金に関する仙台高裁平成28年5月13日判決

 未支給年金とは、年金を受けている方が亡くなったときにまだ受け取っていない年金や、亡くなった日より後に振込みされた年金のうち、亡くなった月分までの年金のことを言います。

 未支給年金は相続の対象ではなく、受給者と生計を同じくしていた遺族が受け取ることができます。

 未支給年金は、裁判で争われることは余りありませんが、仙台高裁平成28年5月13日判決が判断していますのでご紹介します。

仙台高裁平成28年5月13日判決

事案の概要

① 老齢基礎年金及び老齢厚生年金を受給していた別居中の夫Aが死亡したことから、妻であるXがその未支給年金の支給を申請した。

② 国Yは、XがAと生計を同じくしていたとは認められないとの理由で不支給処分をした。

③ そこで、Xは国Yに対し、不支給処分の取り消しを求める訴訟を提起した。

原審(仙台地裁平成27年10月5日判決)

 次のように述べて請求を棄却しました。

「 国年法19条1項及び厚年法37条1項は、年金給付又は保険給付の受給権者が死亡したために未支給となった年金又は保険給付の支給を請求するためには、受給権者の配偶者又は子など身近な親族であることに加えて、受給権者の死亡の当時、その者と生計を同じくしていたものであること(生計同一要件)を要する旨を定めている。これは、死亡した受給権者が有していた年金給付又は保険給付に係る請求権は、一身専属性を有するもので相続の対象となるものではないが、受給権者の死亡の当時に受給権者と生計を同じくしていた遺族の生活保障の見地から、当該遺族に未支給の年金又は保険給付を支給することを特に認めた趣旨であると解される。

 国年法19条1項及び厚年法37条1項の上記立法趣旨に鑑みると、未支給の年金及び保険給付の支給要件である生計同一要件は、消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況をいうものと解するのが相当である。

 そして、別居していた夫婦が生計同一要件を充足するか否かは、別居中の経済的援助の状況や別居解消の可能性等を考慮して、別居夫婦が消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあったか否かを判断すべきであり、夫婦が別居に至った理由や別居期間及び別居中の音信・訪問等の夫婦間の交流の状況については、上記別居解消の可能性の考慮要素として判断の資料とするのが相当である。

 そうすると、配偶者によるDVを避けるために別居に至ったという事情がある場合には、そのような事情は、生計同一要件を修正又は緩和する要素としてではなく、上記の別居解消の可能性を検討するにあたっての考慮要素として評価するのが相当である。」

「 以上にみたとおり、Aが死亡した平成24年〇月○日当時において、XとAとの別居解消の可能性が乏しかったこと、Xの生計は専らX自身の収入及びA以外の親族からの援助によって成り立っていたことに照らすと、XがAの死亡の当時同人と消費生活上の家計を一つにしていたということはできず、本件未支給年金等のいずれについても生計同一要件を充足しないというべきである。」

仙台高裁平成28年5月13日判決

 高裁は、次のように述べて、原判決を取り消して、国Yの不支給処分を取り消しました。

生計同一要件充足性判断の枠組みについて

「 国年法19条1項及び厚年法37条1項は、年金給付又は保険給付の受給権者が死亡したために未支給となった年金又は保険給付の支給を請求するためには、受給権者の配偶者又は子など身近な親族であることに加えて、受給権者の死亡の当時、その者と生計を同じくしていたものであること(生計同一要件)を要する旨を定めている。これは、死亡した受給権者が有していた年金給付又は保険給付に係る請求権は、一身専属性を有するもので相続の対象となるものではないが、受給権者の死亡の当時に受給権者と生計を同じくしていた遺族の生活保障の見地から、当該遺族に未支給の年金又は保険給付を支給することを特に認めた趣旨であると解される。

 国年法19条1項及び厚年法37条1項の上記立法趣旨に鑑みると、未支給の年金及び保険給付の支給要件である生計同一要件を充足するというためには、原則として、現に消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあることを要すると解するのが相当である。夫婦の場合、たとえ婚姻関係が悪化して別居するに至っていても、夫婦の一方から他方に対して、任意的であれ強制的であれ婚姻費用分担金が支払われている場合には、特段の事情のない限り、現に消費生活上の家計を一つにしているということができる。しかし、現に婚姻費用分担金が支払われていない場合でも、夫婦の一方が家庭裁判所の確定審判等により債務名義を得て強制執行に着手することを検討しているような場合、現に婚姻費用の支払を受けていないことをもって直ちに生計同一要件を充足していないとするのは不合理である。更に、強制執行が不奏功となったり、奏功する目途がないため(婚姻費用分担義務者に年金収入しかない場合はその典型である。)婚姻費用分担金請求の債務名義の取得等に時間と費用を掛けることを避け、当面の生活費の不足分を借入れ等によって一時的に補填した場合、そのような借入債務は、本来、日常家事債務として夫婦が連帯してその責任を負うべきもの(民法761条)であることに照らせば、このような状況において現に婚姻費用分担金が支払われていないからといって直ちに生計同一要件を充足しないとするのも不合理である。

 このように、夫婦における生計同一要件充足性の判断においては、現に消費生活上の家計を一つにしているか否かという事実的要素によってのみ判断することで常に足りるというものではなく、当該夫婦の個別的具体的事情を勘案し、婚姻費用分担義務の存否その他の規範的要素を含めて判断すべき場合があるというべきである。このように解しないと、例えば、離婚請求をすることが信義則上許されない配偶者の有責行為により婚姻関係が事実上破綻し、当該配偶者が婚姻費用分担義務を履行していないような場合、他方の配偶者は自ら離婚を選択しない限り離婚に伴う年金分割制度を利用することはできず、その間に当該有責配偶者が死亡しても、現に消費生活上の家計を一つにしていないことを理由に遺族年金等の支給も受けられないという状況に陥ることもあり得ることになり、不合理というべきである。

 以上の見地からすると、法律上の夫婦については、婚姻関係が悪化したことにより別居中であったとしても、当該夫婦の婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みがないとき、すなわち事実上の離婚状態にあった場合(単に婚姻関係が事実上破綻の域に達しているというだけでは足りず、当該夫婦が合意の下に既に完全に独立して生計を立てているとか、事実上の離婚給付に相当するものが支払われるなどして、当該夫婦間の具体的な婚姻費用分担義務が否定され消費生活上の家計を一つにしていないといえるほどに事実上の離婚状態が作り上げられていたような場合がこれに当たると解される。)や、遺族となった配偶者にも十分な収入がありその生計維持のために受給権者からの経済的援助の必要がなかったことが明らかである場合は別として、受給権者が死亡した時点で遺族となった配偶者に対して現実に受給権者から経済的援助がされていなかったという事実的要素のみをもって生計同一要件を充足しないと判断することは相当ではない。このことは、本件基準において、生計同一認定対象者が配偶者である場合に、住民票上同一世帯であるとき、世帯が同一でなくとも住所が住民票同一であるときについては個別的具体的事情に立ち入ることなく直ちに生計同一性を認定するものとし、住所が住民票上異なっている場合に、当該夫婦の個別的具体的状況に踏み込んだ一定の基準を設けて生計同一性を認定するものとし、更に、「ただし、これにより生計同一関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、この限りではない。」とされていることにも合致するというべきである。」

結論

「 上記・・・・・の事情を総合考慮すると、XとAとが別居により住所を異にしたのは、やむを得ない事情によるものであったところ、本件基準に照らしても、別居中、AからXに対して経済的な援助が行われていたといえるし、平成24年〇月○日の時点においては、Aの容態さえそれを許せば、別居を解消して消費生活上の家計を一つにすると認められる状況にあったということができる。本件基準にいう定期的音信、訪問については、別居期間中全部を通じれば、定期的に音信、訪問があったということはできないが、XとAの接触は直接ではないとしても保たれており、XがAと別居した直接の原因がAの激しい暴力にあったこと、その後、AがXに離婚を求める姿勢を続けていたことに照らせば、定期的な音信、訪問がなかったという一事をもってXとAとの生計同一性を否定するのは、実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上、妥当性を欠くこととなるというべきである。

 以上によると、本件基準に照らしても、XとAとの間に生計同一性を認めることができる。」

コメント

 本件は未支給年金についての判決ですが、遺族年金について、受給権者が重婚的内縁関係を形成しており、戸籍上の配偶者と内縁配偶者のいずれが遺族年金を受給できるかについて争われることが多いようであり、参考となる事案です。

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(弁護士 井上元)

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