行政書士の遺産分割業務を違法とした東京地裁平成28年7月30日判決

行政書士業務と弁護士法72条

 法律に関連する業務を行う士業として弁護士、司法書士、行政書士の資格がありますが、これに関して、行政書士が遺産分割に係る事件を受任したことが弁護士法に違反するとした裁判例がありますのでご紹介します。

 まず、行政書士が行うことのできる業務は行政書士法で定められています。

行政書士法1条の2

1項

 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(略)を作成することを業とする。

2項

 行政書士は、前項の書類の作成であっても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

行政書士法1条の3

1項

 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。

一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(略)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。

二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。

四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

2項

前項第2号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。

 一方、弁護士法72条では次のように定められています。

弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

 そして、弁護士法77条では、72条の規定に違反したものは2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処するとの罰則が定められています。

東京地裁平成27年7月30日判決

事案の概要

 相続人の1人である原告は、行政書士である被告に対し次のような請求をしました。

① 被告が原告から受任した相続手続は、相続人間に争いのある遺産分割に関するものであったから、当該事務を受任する旨の委任契約は、弁護士法72条に反し、公序良俗に反するので無効であり、被告の原告に対する報酬請求権は発生していなかったにもかかわらず、被告は原告から報酬として合計122万4840円を受領した。

② 被告は、原告の承諾がないにもかかわらず、原告の寄与分や相続財産から支弁すべき保存費用、葬儀関連費用を考慮せずに遺産分割協議を成立させたことにより、原告の要請に沿った遺産分割協議がなされていれば、原告が取得できたであろう金額から原告が現に取得した金額との差額の損失を被ったと。

③ そして、民法709条に基づき、①と②の合計額にその1割の弁護士費用を加算した合計額の賠償金及遅延損害金の支払を求めた。

判決内容

 次のように述べて、判決は行政書士に対する上記損害賠償請求を認めました。

「1 まず、本件において被告がした業務が、弁護士法72条に違反するか(行政書士の業務の範囲内であるか否か。)につき検討する。

 証拠(甲49)によれば、原告と被告は、平成21年1月17日に本件契約を交わし、被告は、原告から、亡Aの財産を相続人に相続するための手続を委託され、そのために相続財産を調査することを約していることが認められ、原告は、亡Aの相続に関し、原告の寄与分や負の遺産の清算を求めており、その後、原告宅にて、原告、B及び被告が集まったものの、相続人間の合意が整わず、原告と被告との間で、弁護士を選任して遺産相続のための手続を進めることが話題とされたことは被告も自認するところである。

 なお、原告は、遺産分割協議書(甲41)及び被告が提出した委任状(乙2)に署名捺印したことを認めてはいるが、原告は、遺産分割協議書は預金等の払戻を受けるため便宜作成したものと主張するところ、委任状(乙2)において、相続人各自が法定相続分通り分割する内容になっている亡D(D)の遺産であるH株券については、被告は、同株券をEが全て取得する内容の原告の委任状(乙3の1)を提出しているところ、同委任状の原告の氏名は不動文字にて印字され、印影は乙2とは異なっていることが認められ、原告はその成立を否認し、被告は、同委任状の作成経過についての原告の釈明に応じないまま、不出頭を繰り返していること、そもそも原告が署名した委任状(乙2)の宛名が原告ではなくBになっている点に対する被告の説明もないことからすれば、原告が従前主張していた寄与分等を遺産から控除しないことを前提に遺産分割手続を進めるよう被告に要請したと認めることはできない。

 上記によれば、被告は、亡Aの相続手続に関し、将来法的紛議が発生することが予測される状況において書類を作成し、相談に応じて助言指導し、交渉を行ったものといわざるを得ず、かかる被告の業務は、行政書士の業務(行政書士法1条の2第1項)に当たらず、また、弁護士法72条により禁止される一般の法律事件に関する法律事務に当たることが明らかであるから、行政書士が取り扱うことが制限されるものというべきである(同旨、最高裁第1小法廷判決平成22年7月20日、判例時報2093号161頁参照)。

 よって、本件契約に基づく被告の業務は、弁護士法72条に違反して無効であるから、これにより原告が被った損害につき、被告は原告に対し、賠償する責任がある。」

最高裁平成22年7月20日判決

 上記東京地裁判決が引用している最高裁平成22年7月20日判決は、賃貸借の対象となっている建物の明渡し交渉を行った者につき弁護士法72条違反が問われた事件であり、最高裁は次のように述べています。

「 所論は、A社と各賃借人との間においては、法律上の権利義務に争いや疑義が存するなどの事情はなく、被告人らが受託した業務は弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから、同条違反の罪は成立しないという。しかしながら、被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。」

コメント

 上記裁判例のとおり、行政書士は紛争性のある案件を受任することはできませんので号注意ください。

(弁護士 井上元)

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