預金払戻金につき遺言書を解釈した東京地判H27.7.15

 遺言書の解釈については、最高裁昭和58年3月18日判決が次のように判示しています。

「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」

 遺言の解釈を巡り、死亡直前に解約された預金が「預金」であるのか「現金」であるのか争われた事例がありますのでご紹介します。

東京地裁平成27年7月15日判決

事案の概要

⑴ 被相続人Aは次のような公正証書遺言を作成した。

① Aが有する預貯金債権は、Xら2名及びYが各3の1ずつ相続する(遺言書5条)。

② Aが有する現金はYが相続する(遺言書6条)。

⑵ Aは、平成24年7月に死亡したが、その2ヶ月程前に、預金を解約し、A死亡時点において、Yが同払戻金から現金1977万円を保管していた。

⑶ Xらは、上記現金1977万円は遺言書5条の「預貯金債権」に当たると主張し、Yに対し、各3分の1である659万円の支払いを求めた。

判決

 次のように述べて、Xらの請求を棄却した。

「1 本件では、本件遺言5条及び6条の解釈が問題になるので、以下において検討する。

⑴ この点について、原告らは、「遺言者が有する現金」とは、通常、遺言者が手元不如意にならないようにしておくために所持している少額の現金をいうものと解され、本件定期預金の払戻金は、本件遺言5条の「遺言者名義の預貯金債権」に該当するものと考えられると主張する。しかし、まず、本件各証拠からすれば、Aは、死亡の頃まで、判断能力に特段の問題はなかったものと認められるところ、本件遺言においては、不動産、特定の株式、それ以外の株式及び預貯金債権、現金及び動産と分類した上で、それぞれ特定の相続人に取得させるものとしており、その規定は文言としていずれも明確であり、「遺言者が有する現金」との文言を、少額なものに限定するものと解することはできない。また、原告らは、本件払戻金が、預貯金債権としての性質を未だ喪失していない旨主張するが、Aは、自ら本件定期預金を解約したものであり(略)、それにもかかわらず、その2箇月後にAが死亡したことをもって、預貯金債権と同様とみることはできないし、同時期に、Aは、○○銀行○○支店からも預金の払戻しを行っているのであり、「預貯金債権として特定できるか否か」といった不明確な基準により、遺言者の意思を推認して区別することはできない。

 そうすると、本件定期預金の払戻金は、Aの相続開始段階において、現金で所持されていたものであるから、被告は、本件定期預金の払戻金を、本件遺言に従って受領したものであり、その受領をもって、法律上の原因なく利得したものということはできない。

⑵ この点について、原告らは、最高裁昭和58年3月18日判決(集民138号277頁)を引用して、前記主張のとおり解すべきである旨主張する。しかし、本件遺言は、○○弁護士らの関与の下、公正証書遺言の方式で作成されているところ、遺言者は、遺言書によってその意思を表示しているのであるから、遺言書の記載から離れたところに遺言者の真意を求めることはできないところ、本件遺言の意味内容は遺言全体につき明確であるから、本件遺言全体の記載内容等を考慮したとしても、原告ら主張のように解することは困難である。」

コメント

 本件では、遺言書の解釈としては、預金の解約金が「現金」とされ、Yが取得するとの結論はやむを得ないとも言えますが、死亡直前に多額の預金が解約されたものであって、釈然としないものも残ります。

 このように、遺言書作成後に財産状況が変動することは当然に有り得ることですから、遺言書作成に際しては、この点にも十分は配慮が必要です。

(弁護士 井上元)

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