自筆証書遺言による遺言信託につき判断した東京高判H28.10.19

 自筆証書遺言の内容が遺言信託であるとして、その内容が解釈された珍しい裁判例がありますのでご紹介します。

東京高裁平成28年10月19日判決

事案の内容

⑴ 遺言者Aは次の内容の自筆証書遺言を遺して、平成20年に死亡した。

①私の財産のうち株券(※Y株式会社の株式のこと)はFの子供B(※Xの孫)にあげる。

②株券はBが成人するまで弁護士Xが信託管理し、株券の権利行使は全部同弁護士が行使する。

⑵ Aの死亡後、Xは、Y株式会社の株式(※A株式)を信託により取得したとして、Yに対し、株主総会決議不存在確認等を求める訴訟を提起した。

判決内容

 東京地裁はXの訴えを却下ないし棄却し、Xが控訴したが、東京高裁は、Xの控訴を棄却した。

 信託に関する判示は次のとおりである。

「⑴ 本件遺言信託の内容及び効力

ア 本件遺言信託は、信託行為(信託法2条2項)たる本件遺言の個々の条項、本件遺言中のそのほかの記載内容全体との関連、前記認定の本件遺言作成当時の事情及び遺言者であるAの置かれていた状況(本件組合側の人物との対立、参加人C及びDとの対立等)などを総合的に考慮すると、次のAからGまでの内容のものと解するのが相当である。

A 信託財産 本件A株式

B 信託の目的(信託法2条1項) Bのための本件A株式の保存、管理

C 受託者 一審原告X

D 受益者 B

E 受益権の主要な内容 一審被告から自益権に係る給付(配当等)を受けて、これを受益者に交付する。共益権(議決権・株主提案権・帳簿閲覧権・訴訟提起権など)は受託者が自己の判断により行使する。

F 信託行為において定める信託の終了事由(信託法163条9号) Bの成人

G 信託行為において指定する残余財産の帰属権利者(信託法182条) B

イ 本件遺言の内容からすると、本件遺言は、相続開始時に本件A株式を本件遺言信託の受託者である一審原告Xに取得させ、本件遺言信託終了時に本件A株式を残余財産の帰属権利者であるBに取得させることを意図したものと推認される。そして、信託行為において定める信託終了事由(Bの成人)が発生する前に別の信託法163条所定の信託終了事由が発生した場合には、当該別の信託終了事由により信託が終了するものと解される。また、本件遺言の内容によれば、本件遺言信託においては、信託終了事由が何であるかにかかわらず、残余財産の帰属権利者はBであると解される。

ウ 本件A株式については、本件遺言中では遺言信託のみが定められたものと解され、遺言信託とは別に遺贈や始期付遺贈が定められたものと解することはできない。本件遺言が、本件A株式をBに遺贈した上で、一審原告Xとの間で信託契約を締結することをBに指示したものと解することは、遺言信託(信託法3条2号)の定義を超えた解釈であって、困難である。本件遺言信託は、いわゆる議決権信託であるという考え方もあり得るが、その場合であっても、結局のところ、一審原告Xを受託者として議決権行使を認めることになり、Bを受益者(配当等相当額を受領する。)兼残余財産帰属権利者とする形(前記AからGまで)に落ち着かざるを得ない。遺言信託において、議決権信託と遺贈を共存させることには無理がある。また、負担付遺贈(民法1002条。Bに遺贈した上で、Bに一審原告Xとの間で前記AからGまでの内容の信託契約を締結すべき義務を負担として課し、民法1027条などの規律を受ける。)を定めたものと解することも、不自然である。始期付遺贈(Bの成人時にBに遺贈する。)は、いわゆる後継ぎ遺贈(無効である。)に類するものであるので、始期付遺贈と解することには無理がある。」

「⑵ 本件遺言信託の目的達成不能による終了(信託法163条1号)

ア 譲渡制限株式であっても、一般承継による株式の移転には、会社の承認は不要である(会社法133条2項、174条参照)。しかしながら、遺贈は一般承継ではないから、遺贈による譲渡制限株式の移転には、会社の承認が必要である。そして、本件のような遺言信託は、株式を遺言者から遺言信託の受託者に移転するものである(信託法3条2号)が、これも一般承継ではないから、遺言信託による譲渡制限株式の移転にも、会社の承認が必要である。

イ 前記認定事実によれば、平成21年○月○○日に開催された一審被告取締役会において一審原告Xへの本件A株式譲渡承認議案が否決され、その旨が当該取締役会に出席して取締役会議事録に押印した一審原告Xにその場で通知されたものと解される。そうすると、本件遺言信託は、一審原告Xが本件A株式の譲渡を受けることができず、信託受託者の役割を果たすことができないため、信託の目的達成不能により終了したものと解される(信託法163条1号)。なお、その後に本件A株式の本件遺言による一審原告Xへの移転について一審被告の承認があったことを認めるに足りる証拠はない。

 ところで、前記認定のとおり、平成21年○月○○日という時期は、それまでの株主総会における複数の取締役選任決議や解任決議の効力が争われている最中であった。これらの決議については、その後、決議不存在確認判決が確定した。譲渡不承認の取締役会決議は、代表取締役職務代行者○○弁護士及び参加人○の2人が出席し、職務代行者が棄権して参加人○1人だけが議決権(不承認)を行使したものであった。そうすると、譲渡不承認の取締役会決議の効力が否定され、会社法145条1号の規定により譲渡承認がされたものとみなされる可能性があるので、さらに検討を進めることとする。

ウ 仮に本件A株式の一審原告Xへの譲渡についてみなし承認(会社法145条1号)があったとしても、本件遺言信託は、平成23年○月○○日のBの親権者による本件受益権放棄があったため、信託の目的達成不能により終了した。受益者全員が受益権を放棄した場合には、信託は目的達成不能により終了する(信託法163条1号)と解されるからである。」

「⑶ 本件遺言信託の清算手続(信託法175条以下)

ア 本件遺言信託は、信託の終了により清算手続に入る。清算結了までは本件遺言信託が存続する。信託受託者である一審原告Xは、法律の規定により清算受託者となり、信託法177条の定める職務を行うべき義務を負う。清算手続において、清算受託者(一審原告X)は、信託行為において指定する残余財産の帰属権利者であるBに対して、残余財産となる本件A株式を給付すべき義務を負う。

イ 残余財産の権利移転時期は、信託終了と同時に物権的に移転するのではなく、清算受託者が、現務結了、債権取立及び債務弁済を終えた後の残余財産給付行為(株券交付)を実行した時に初めて移転すると解される。ところで、本件においては、現務の結了は容易で、取り立てるべき債権及び清算受託者以外の者に弁済すべき債務はないものと推定され、清算受託者(一審原告X)の信託報酬も発生せず(信託法54条)、Bが自己の財産から容易に弁済できる程度の少額の費用償還請求権(信託法48条)が清算受託者(一審原告X)に発生している可能性があるにとどまる。そうすると、一審原告Xは、清算手続(残余財産のBへの給付)が早期かつ容易に実行可能であるのに、信託終了を否認したまま清算受託者としての義務を果たそうとしていないことになる。このような者が、自らの残余財産給付義務(株券交付)の不履行の事実を差し置いて、B(ひいてはD)の株主たる地位を争うのは、信義則違反であって許されない。

コメント

 本件では、遺言により、同族会社の譲渡制限株式が信託譲渡されたと解されたものの、①株式譲渡に対する会社の承認がないため当該遺言信託は目的達成不能により終了した、②仮に譲渡についてみなし承認があったとしてもBの親権者による本件受益権放棄があったため信託の目的達成不能により終了したとされ、結局、信託をした意味がなくなってしまいました。

 信託を設定するためには、信託法その他の関連する法令を十分に理解したうえで実行する必要がありますので、信託の利用を考えるのなら、必ず専門家に相談すべきです。

(弁護士 井上元)

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