国に対する相続税申告書の文書提出命令申立を却下した福岡高裁宮崎支決H28.5.26

 遺産分割調停・審判において、自分(X)が遺産の詳細を把握しておらず、相手方(Y)が遺産の詳細を把握しており、遺産を隠しているのではないかとの疑いを持つことがあります。

 Yが相続税の申告をしている場合、少なくとも相続税の申告書を開示しておればともかく、それすら開示しないこともあり、調停・審判はますます紛糾することになります。

 このように、Yが相続税申告書を開示しない場合、Xとしては、国に対して相続税申告書の提出を求める文書提出命令申立を行うことも考えられますが、福岡高裁宮崎支部平成28年5月26日決定は却下していますのでご紹介します。

福岡高裁宮崎支部平成28年5月26日決定

 原審の鹿児島家裁平成27年11月19日決定は、文書提出命令を認めましたが、高裁は次のように述べて、これを取消し、申立を却下しました。

「4 民事訴訟法220条4号ロ該当性について

(1) 本件文書が「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当するか

 民事訴訟法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」には、公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって、それが基本事件において公にされることにより、私人との信頼関係が損なわれ、公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれると解すべきである。

 本件文書は、相続税申告書及びその添付書類であり、被相続人の遺産並びに申告者が相続しまたは遺贈を受けた財産の具体的内容及びその評価額や申告者の親族関係等の秘密にわたる事項が記載されているのであるから、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密が記載されたものであって、これが公にされることにより、申告者との信頼関係が損なわれ、申告納税方式による税の徴収という公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるということができるから、本件文書は、民事訴訟法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密に関する文書」に該当する。

(2) 本件文書について「その提出により公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれ」があるか

 本件文書は、被相続人の遺産並びに申告者が相続しまたは遺贈を受けた財産の具体的内容及びその評価額や申告者の親族関係等の秘密にわたる事項が記載されているものではあるが、その提出が求められている基本事件は、当該相続税申告に係る被相続人の相続人間における遺産分割調停事件であって、その手続は公開されず(家事事件手続法33条)、記録の閲覧等についても利害関係を疎明した第三者のみならず当事者についても裁判所の許可を要するものとされている。他方で、相続税は、相続または遺贈により財産を取得した全ての者がそれぞれその納税義務者として申告書の提出義務を負うものであるが、積極財産及び消極財産(債務)を含む被相続人の全財産(遺産)をもれなく正確に申告することが適正な相続税課税の前提とされているのであって、被相続人の遺産の申告内容について各相続人間にそごが生ずることは制度上予定されていない。

 しかしながら、遺産分割調停において、遺産の内容や範囲等について相続人間に紛争が存する場合に、感情的対立等から、申告内容に含まれる情報の対立当事者による悪用のおそれ等を理由に、相続人が自己の相続税の申告内容を他の共同相続人等に開示することを拒むこともまれではない。このような場合において、相続税申告書及びその添付書類を当該遺産分割調停事件に提出することにより、申告者との信頼関係が損なわれることは明らかである。

 そもそも、申告納税制度は、納税者が自ら課税標準及び税額を計算し自主的に申告して納税する制度であって、納税者の自主的かつ誠実な申告を前提に組み立てられている制度である。そうであるところ、納税者の自主的かつ誠実な申告にとって、納税者と税務当局との間の信頼関係の確保が不可欠であり、このような観点から、税務職員には、国家公務員法100条、109条12号による守秘義務に加えて、国税通則法126条により、より重い守秘義務を課すなどして、申告納税制度の適切かつ円滑な運用を担保しているのである。そして、申告納税方式が相続税のみならず所得税、法人税、消費税等の主要な国税において採用され、これらの税目が国の諸活動の基本となる税収の主要部分を構成していることにも鑑みると、遺産分割調停事件における共同相続人に対する当該遺産に係る相続税の申告書及びその添付資料であっても、申告者の意に反して当該申告書等を提出することが認められた場合には、税務行政に対する納税者の信頼が損なわれ、納税者の自主性を前提に組み立てられている申告納税方式による国税の適正な徴収の円滑な遂行に著しい支障を生ずることは明らかというべきであり、このような支障は、税務職員に付与された調査権の行使や、加算税制度ないしは罰則の規定等によっては到底担保し切れるものではないというべきである。

 そうであるとすれば、本件のような遺産分割調停事件における相続税申告書及びその添付書類の提出が、被相続人の遺産の全貌を明らかにし、調停手続を円滑かつ迅速に進める上でその必要性が認められ、ひいては適正な遺産分割の実現による紛争の解決に資するところがあることなどを考慮しても、本件文書のような相続税申告書及びその添付書類は、その記載内容からみて、その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれの存在することが具体的に認められ、民事訴訟法220条4号ロに該当するというべきである。」

コメント

 上記のとおり、国に対する相続税申告書の文書提出命令申立が認められるのは困難であり、開示を受けられない相続人としては、他の方法により財産の存在を立証する努力をする必要があります。

(弁護士 井上元)

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