遺産分割は、相続人全員で行う必要がありますから、通常、相続人の確定のために、戸籍等を取り寄せて調査します。そして、戸籍上被相続人と一定の身分関係がある者たちが相続人として遺産分割に参加することになります。しかし、戸籍の記載は絶対に真実とは限りません。戸籍が誤っているために、真実は相続人でない場合もあります。以前、被相続人がずっと前に死亡しているにもかかわらず、その被相続人から出生したことになっている戸籍を見た事があります。また、逆に、遺産分割当時は相続人でしたが、あとに相続資格が否定されてしまうようなこともありえます。
したがって、遺産分割がなされた後に、当該遺産分割に相続人として参加していた者が実は相続人ではなかったことはありえるのですが、そのような場合、遺産分割の効力はどうなるのでしょうか。
1 相続人でない者が遺産分割に加わるケース
相続人でないにも関わらず、遺産分割に参加するのは、大きく分けると2パターン考えられます。
(1)遺産分割時点で相続人ではなかった者
①戸籍が誤っており、相続人とされていた。
②行方不明だったので、不在者財産管理人を選任したが、実は被相続人の死亡前に亡くなっていた。
(2)遺産分割後に、遡って相続資格を喪失した者
以下のことが、遺産分割後に確定したような場合です。
①相続人廃除の審判
②婚姻無効
③縁組無効
④嫡出否認
⑤認知無効
2 相続人以外の者が参加した遺産分割の効力
(1)真の相続人が遺産分割から除外されている場合
相続人でない者が遺産分割に参加した結果、真の相続人が遺産分割から除外されてしまったケース(相続順位に変更があったということ)では、一般的に無効と考えられています。
(2)真の相続人が遺産分割から除外されていない場合
相続人でない者が遺産分割に参加しただけで、真の相続人は遺産分割から除外されていないケース(相続順位に変更なし)では、諸説ありますが、無効を制限する考えが有力です。
①大阪地裁平成18年5月15日判決(判タ1234号162頁)
大阪地裁平成18年5月15日判決では、「共同相続人でない者が参加して行われた遺産分割協議は、原則として、当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となるのであり、ただ、当該共同相続人でない者が取得するとされた財産の種類や重要性、当該財産が遺産全体の中で占める割合その他諸般の事情を考慮して、当該共同相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば、当該協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合など、当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となると解するときは著しく不当な結果を招き、正義に反する結果となる場合には、当該遺産分割協議の全部が無効となると解するのが相当である。」と判示し、制限的に無効を考えています。
(上記大阪地裁判決の理由)
①共同相続人の全員が参加して当該協議が行われたものと認められる以上、直ちに当該協議の全部について瑕疵があるということはできないこと
②むしろ、共同相続人でない者に分配された相続財産のみを未分割の財産として再分割すれば足りるとするのが、当該協議に参加した者の通常の意思に合致するとみられること
③法律関係の安定性や取引安全の保護の観点からすると、いったん遺産分割協議が成立し、これを前提とする相続財産の処分等がされた後に当該協議の効力を常に全面的に否定することは、できる限り避けるのが相当であること(弁護士中村友彦)