死亡保険金受取人を「相続人」と指定した場合の解釈

 被相続人が死亡保険金の受取人を「相続人」と指定して死亡した場合、その死亡保険金は相続財産となるのでしょうか、あるいは、相続財産ではなく相続人が固有の資格で取得するのでしょうか?

 また、相続人が固有の資格で取得する場合、その取得割合はどのようになるのでしょうか?

 上記の問題につき、当該保険契約約款で規定されていない場合、その解釈が問題となります。

死亡保険金は相続財産か相続人固有の財産か?

 最高裁昭和40年2月2日判決は次のように述べて、相続人は固有の資格で死亡保険金を取得するとしました。

「所論は、養老保険契約において保険金受取人を保険期間満了の場合は被保険者、被保険者死亡の場合は相続人と指定したときは、保険契約者は被保険者死亡の場合保険金請求権を遺産として相続の対象とする旨の意思表示をなしたものであり、商法675条1項但書の『別段ノ意思ヲ表示シタ』場合にあたると解すべきであり、原判決引用の昭和13年12月14日の大審院判例の見解は改められるべきものであって、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があると主張するものであるけれども、本件養老保険契約において保険金受取人を単に『被保険者またはその死亡の場合はその相続人』と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であって、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない。そして右の如く保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。」

「保険金受取人の指定のないときは保険金を被保険者の相続人に支払う」旨の保険約款の場合は?

 最高裁昭和48年6月29日判決は次のように述べて、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時におけるその相続人たるべき者のための契約であると解するのが相当であるとしました。

「『保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う。』旨の条項は、被保険者が死亡した場合において、保険金請求権の帰属を明確にするため、被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解するのが相当であり、保険金受取人を相続人と指定したのとなんら異なるところがないというべきである。そして、保険金受取人を相続人と指定した保険契約は、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時におけるその相続人たるべき者のための契約であり、その保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱したものと解すべきであることは、当裁判所の判例(昭和36年(オ)第1028号、同40年2月2日第三小法廷判決・民集第19巻第1号1頁)とするところであるから、本件保険契約についても、保険金請求権は、被保険者の相続人である被上告人らの固有財産に属するものといわなければならない。」

相続人が保険金を受け取るべき権利の割合は?

 最高裁平成6年7月18日判決は次のように述べて、特段の事情のない限り、各保険金受取人の有する権利の割合は相続分の割合になるとしました。

「保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の『相続人』と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。けだし、保険金受取人を単に『相続人』と指定する趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあるとともに、右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。したがって、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の『相続人』と指定した場合に、数人の相続人がいるときは、特段の事情のない限り、民法427条にいう『別段ノ意思表示』である相続分の割合によって権利を有するという指定があったものと解すべきであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の割合になるものというべきである。」

 各保険金受取人の有する権利の割合については均等説(複数の相続人があるときの死亡保険金に対する各人の持分的権利は相続によって取得したものではないから、法定相続分によるものではなく、とくに指定のないかぎり平等(均等)であるとする)と相続分説(受取割合は相続分によるとの指定が含まれているとする)に分かれていましたが、上記最判は相続分説に立ったものです。

神戸地裁尼崎支部平成26年12月16日判決

 同事件は、被相続人が死亡保険金の受取人を法定相続人と指定して締結した生命保険契約に関し、他の法定相続人全員が相続放棄したことにより、相続放棄した法定相続人らの死亡保険金請求権が原告に帰属したと主張して、保険会社に対し、上記保険契約に基づき、死亡保険金全額の支払いを求めた事案です。

 判決は、上記最高裁昭和40年2月2日判決及び最高裁平成6年7月18日判決を引用し、他の相続人が相続放棄に加えて保険金請求権の放棄又は受取拒絶の意思表示をしたとしても、特段の事情がない限り、これによってその者の保険金請求権が相続放棄をしなかった他の法定相続人に帰属するとも被保険者の相続財産に帰属するともいえないとしました。

コメント

 保険に関しては、従来、商法で規定されていたところ平成20年に保険法が制定されていますが、受取人を「相続人」と指定した場合についての規定はありませんので、約款に規定がない限り、上記裁判例に従うことになります。

 また、保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となり(保険法46条)、この場合の権利の割合は民法427条により平等の割合になるとされています(最高裁平成5年9月7日判決)。

 このように保険に関しては相続法のみで判断することはできませんので注意が必要です。

(弁護士 井上元)

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