遺留分

人は自分の財産を生前に自由に処分することができますし、遺言を作成することにより死後に処分することもできます。
しかし、全ての財産が処分されてしまいますと遺族の生活の安定がおびやかされます。また、特定の相続人などに多くの財産が譲られてしまいますと不公平になってしまいます。
そこで、民法は、一定の範囲の相続人に一定の割合の相続分を保障する制度をもうけています。これが遺留分です。
遺留分を侵害する遺贈、贈与などがある場合、遺留分を侵害された相続人は、侵害額を自己に戻すよう請求することができます。この権利が遺留分侵害額の請求権です。
遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することによって遺留分相当額を取り戻すことができますし、逆に、他の相続人の遺留分を侵害している相続人は、遺留分侵害額請求権を行使されることにより、遺留分相当額を支払わなければなりません。
遺留分侵害額の請求は複雑であり、一般の方が自分の判断で行うことは危険です。遺留分に関する紛争が生じた場合には、当事務所にご相談いただければ、適切な助言、サポートをさせていただきます。

遺留分とは?

被相続人は、遺言などにより自分の財産を自由に処分することができますが、配偶者、子、親などの一定の相続人には、一定の範囲で取り戻すことができます。これを遺留分と言います。
遺留分が認められている理由は、①被相続人死亡後の近親者の生活保障、②遺産の維持・形成への貢献を考慮した遺産の再分配、③実質的夫婦共有財産の清算、④共同相続人間の公平の確保などが挙げられています。

遺留分権利者と割合

遺留分権利者

遺留分を有するのは、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち、配偶者、子、直系尊属(両親や祖父母など)のみです(1042条1項)。兄弟姉妹に遺留分はありません。
相続欠格者・被廃除者に遺留分はありません。ただし、子が相続欠格者・被廃除者である場合には代襲相続が開始し、直系卑属が遺留分権利者となります、
相続放棄者にも遺留分はありません。この場合、代襲相続は開始せず、次順位の相続人の遺留分の問題となります。

遺留分の割合

総体的遺留分(民法1042条1項)
  1. 直系尊属のみが相続人であるとき 3分の1
    典型的なのは、子がおらず、配偶者と両親のみが相続人の場合です。
  2. その他の場合 2分の1
    典型的なのは、配偶者と子、もしくは子のみが相続人の場合です。
個別的遺留分(民法1042条2項)

遺留分権利者が複数存在するときは、個別的遺留分は、総体的遺留分を基礎として、法定相続分の算定式に従い算出されます。
例えば、配偶者Wと子A、子Bが相続人である場合、W、A、Bの個別的遺留分は次のようになります。
W:1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続分)=1/4
AおよびB:1/2(総体的遺留分)×1/4(法定相続分)=1/8

コラム

遺留分侵害額請求権の行使方法

遺留分を侵害する遺贈等の効力

遺留分を侵害する遺贈や遺言による財産の処分は、無効ではなく、各遺留分権利者が遺留分侵害額の請求をすることにより、遺留部分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする債権(金銭債権)が生じます。

遺留分侵害額請求権の行使方法

遺留分侵害額請求権の行使について、最高裁昭和41年7月14日判決は、裁判上の請求による必要はなく、受贈者等に対して意思表示するのでもかまわないとしています。しかし、遺留分侵害額の請求をすれば、相続人間で紛争になる可能性が高く、後日、遺留分侵害額の請求の意思表示をしたかどうかで争いにならないように内容証明郵便等の記録が残る方法で意思表示をするべきです。
遺留分権利者が受遺者等に対して最初に行うこととなる遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示は、形成権の行使であり、その時点では、必ずしも金額を明示して行う必要はなりません。そして、その形成権の行使によって発生した金銭債務については、期限の定めのない債務となり、遺留分権利者が受遺者等に対して具体的な金額を示してその履行を請求した時点で初めて履行遅滞に陥るものと考えられています(民法412条3項)。もっとも、遺留分に関する権利を行使する旨の形成権の行使と、金銭債務の履行請求とを同時に行うことは可能ですから、遺留分権利者が受遺者等に対して形成権を行使する際に、併せて具体的な金額を示して金銭の支払を求めた場合には、その時点から金銭債務は履行遅滞に陥ります。(「一問一答 新しい相続法」商事法務124頁)

最高裁昭和41年7月14日判決・民集20巻6号1183頁

遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一たん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。

遺留分侵害額請求後の手続

話し合い

遺留分侵害額請求権を行使した後、相手方と話し合いが可能であれば話し合いで解決することも考えられます。

家事調停

遺留分が侵害されているような状況では、感情的対立が激しく、相続人などの間で円満な話し合いはそもそも期待できないことも多いものと思われます。
その場合、まず、家庭裁判所に家事調停を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合、職権で家事調停に付されます。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りではありません(同法257条2項)。

訴訟

家事調停でも解決しない場合、地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起し、訴訟手続で争われることになります。

コラム

遺留分侵害額請求権の消滅時効・除斥期間

1年の短期消滅時効

遺留分侵害額請求権は、遺留分権者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法1048条前段)。
遺贈・贈与の事実を知っているが、相続財産が不明のため遺留分が侵害されていることを知らなかったとき、あるいは、それが遺留分を侵害しない程度のものと誤信していたときは、消滅時効は進行しません。
1年の消滅時効にかかるのは、形成権である遺留分侵害額請求権であり、遺留分侵害額請求の意思表示をした結果として生ずる金銭債権は1年の消滅時効にはかかりません。その金銭債権は、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で消滅時効にかかります(民法166条1項)。

10年の除斥期間

遺留分侵害額請求権は、相続開始の時から10年を経過すれば消滅します(民法1048条後段)。

コラム

遺留分の放棄

相続開始前の放棄

家庭裁判所の許可が必要

相続開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力が生じます(民法1049条)。
これを無制限に許すと、被相続人や他の共同相続人らの圧迫により遺留分権利者の遺留分をあらかじめ放棄するように強要されるおそれがあるからです。
尚、遺留分を放棄することができるのは、遺留分を有する第1順位の相続のみと解されています。

遺言の作成

遺留分の放棄をしてもらっても、相続権がなくなるわけではありませんから、遺言を作成しないまま相続が開始すると、遺留分を放棄した者も相続することになります。したがって、このような場合には遺言を作成するようにしてください。

相続開始後の遺留分の放棄

相続開始後における遺留分の放棄は自由に行うことができます。
相続開始後に遺留分の放棄をしてもらうには、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受ける者に対して、遺留分を放棄する旨の意思表示をしてもらうことになります。これには所定の方式はありませんが、遺留分を放棄する旨の書面を書いてもらえばよいでしょう。

コラム

遺留分侵害額請求権の金銭債権化

平成30年相続法改正前の遺留分減殺請求権

平成30年相続法改正前における遺留分減殺請求権は、これが行使されると、不動産なら、遺留分の割合により遺留分権利者に所有権が戻り、複雑な共有状態になりました。
そして、遺留分減殺請求権が行使され目的物の返還請求を受けた受贈者・受遺者は、目的物の価額を弁償することによって目的物返還義務を免れることができるとされていました

平成30年相続法改正後の遺留分侵害額請求権

これに対し、平成30年相続法改正により次のように重要な改正が行われました。

金銭債権化

遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされていた規律が見直され、遺留分侵害額請求権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることとされました(民法1046条1項)。

期限の付与

遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者または受贈者が、金銭を直ちには準備できない場合には、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき期限の許与を求めることができます(民法1047条5項)。

施行期日

改正法は、2019年(平成31年)7月1日から施行されており、2019年(平成31年)6月30日までに開始した相続については改正前相続法による遺留分減殺請求、2019年(平成31年)7月1日以降に開始した相続については改正法による遺留分侵害額の請求となりますのでご注意ください。

遺留分算定の基礎財産

基本的算定式

個別的遺留分算定の基礎となる財産(基礎財産)は、次の算定式で計算されます(民法1043条1項)。

基礎財産=〔被相続人が相続開始時点で有していた財産(遺贈財産を含む)〕+〔贈与財産〕-〔相続債務の全額〕

被相続人が相続開始時点で有していた財産の加算

「被相続人が相続開始時点で有していた財産」とは、相続人が承継した積極財産のことです。

条件付きの権利または存続期間の不確定な権利

条件付きの権利または存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価によります(民法1043条2項)。

遺贈の目的物

遺贈の目的物も「被相続人が相続開始時点で有していた財産」に含まれます。

生命保険金

生命保険金は、被相続人が自己を受取人と指定していた場合は相続財産に含まれます。
他方、第三者が受取人に指定されている場合、最高裁平成14年11月5日判決・民集56巻8号2069頁は相続財産に含まれないとしています。その理由は、死亡保険金は保険金受取人固有の権利であり、保険契約者または被保険者である被相続人から承継取得するものではないことなどです。ただし、最高裁平成16年10月29日決定・民集58巻8号1979頁は、保険金受取人として指定された者が共同相続人の1人であった場合、保険金受取人である相続人と他の相続人との不公平が到底是認されないほどに著しいほどであると評価すべき特段の事情のあるときは、特別受益(民法1044条2項)として評価され、基礎財産に算入される余地があるとしています。

死亡退職金

死亡退職金は受給権者へ交付されるものですから、基礎財産に算入されません。

贈与財産の加算

始前1年間にされた贈与

相続開始前の1年間にされた贈与は遺留分の基礎財産に算入されます(民法1044条1項前段)。1年間に限定されているのは、過去に無条件にさかのぼって贈与を基礎財産に算入することによって生じる取引の安全を害する危険を回避するためです。

権利者に損害を与えることを知ってした贈与

当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与は、相続の1年前の日よりも前にされたものであっても、遺留分算定の基礎財産に算入されます(民法1044条1項後段)。

相続人に対する特別受益としての贈与

共同相続人の1人に対してされた贈与は、①それが特別受益(婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与)に該当し、かつ、②相続開始前の10年間にされたものであれば、遺留分算定の基礎に算入されます(民法1044条3項)。
平成30年相続法改正前において、最高裁平成10年3月24日判決・民集52巻2号433頁は、相続人に対する贈与は相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化を考慮するとき、減殺請求を認めることが相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り遺留分減殺の対象となるとしていました。このため、相続人に対する贈与につき何十年も前の贈与が問題とされてきました。
この点、改正法は相続開始前の10年間に限定したものです。
「共同相続人に対する贈与」であることが必要ですから、受贈者が相続放棄をしてしまえば、この者は最初から相続人にならなかったものとみなされますので、基礎財産に算入することはできません。ただし、民法1044条1項後段による加算はあり得ます。

贈与

負担付贈与については、贈与財産の価額から負担の価額を控除した額が基礎財産に算入されます(民法1045条1項)。

不相当な対価でされた有償行為

不相当な対価でされた有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなされます(民法1045条2項)。

相続分の譲渡

相続分の譲渡も民法903条1項に規定する「贈与」に当たります(最高裁平成30年12月19日判決・民集72巻5号900頁)。

相続債務の控除

相続債務の全額が相続財産から控除されます(民法1043条1項)。
この債務には、私法上の債務のみならず、所得税支払債務や罰金支払債務など公法上の債務も含まれます。
保証債務は、主たる債務者が弁済不能の状態にある保証人がその債務を履行しなければならず、かつ、その支出額を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り債務には含まれません(東京高裁平成8年11月7日判決・判例時報1637号31頁)。

基礎財産の評価の基準時

遺留分算定の基礎財産は、相続開始時点を基準に算定されます。
贈与財産の評価方法は、相続開始時点を基準に評価されます。贈与されたのが金銭である場合、相続開始時の貨幣価値に換算されます(最高裁昭和51年3月18日判決・民集30巻2号111頁)。

遺留分侵害額請求の相手方等

共同相続人に対する遺贈・贈与に関する特則

受遺者または受贈者が相続人である場合には、これらの者は、遺贈または贈与の目的の価額からみずからの遺留分を控除した額を限度として、遺留分侵害額について責任を負います(民法1047条1項)。

受遺者または受贈者が複数いる場合

受遺者と受贈者があるときは、受遺者が先に負担します(民法1047条1項1号)。
受遺者が複数あるとき、または受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担します。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います(同項2号)
受贈者が複数あるとき(贈与が同時にされた場合は除きます)は、後の贈与に係る受贈者から、順次、前の贈与に係る受贈者が負担します(同項3号)。

遺留分侵害額の算定

算定式

①まず基礎財産を算定します。

基礎財産=(被相続人が相続開始時点で有していた財産)+(贈与財産)-(相続債務の全額)

②次に遺留分権利者の具体的遺留分の額を算定します。

遺留分権利者の具体的遺留分の額=(①の遺留分算定の基礎財産)×(総体的遺留分率)×(遺留分権利者の法定相続分)

③そして遺留分侵害額を算定します。

遺留分侵害額=(②の遺留分権利者の具体的遺留分の額)-(〔遺留分権利者が受けた遺贈および特別受益である贈与の価額〕+〔900~902条・903条・904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額〕)+(相続債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額)

遺留分~コラムまとめ

遺留分権利者と割合

遺留分侵害額請求権の行使方法

遺留分侵害額請求権の消滅時効・除斥期間

遺留分の放棄

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