相続の代位登記と調書判決に関する奈良地判平成27.12.15

問題の所在

 不動産の売買契約を締結した後、所有権移転登記を行わないうちに売主が死亡した場合、売主の相続人が相続登記をしたうえで、買主に対し、売買を原因とする所有権移転登記を行うことになります。

 売主の相続人が、登記手続に協力しない場合、売主は、次のような手続をとらなければなりません。

① 買主の相続人を被告として売買を原因とする所有権移転登記手続を求める訴訟を提起し、判決を取得する。

② 売主の相続人に代位して、相続登記手続を行う。

③ 上記の後、判決をもとにして売買を原因とする所有権移転登記手続を行う。

 ②の段階で、相続人らが相続人であること、相続分などを示す戸籍・除籍謄本を提出する必要がありますが、保存期間満了による廃棄処分や戦災・震災による焼失等の理由により、戸籍・除籍謄本が提出できない場合があります。

 この場合、確定判決の理由中において売主の相続人は当該相続人らのみである旨の認定がされている場合は、相続人全員の証明書に代えて、当該判決正本の写しが相続を証する書面として取り扱われます。

 上記確定判決は、当事者が実質的に争って証拠調べ手続が執られた結果認定される必要があるのか、もしくは、被告らの自白・犠牲自白により認定されてもよいのか、争われた事例があります。

奈良地方裁判所平成27年12月15日判決

事案の概要

 昭和49年に本件土地を購入した買主は、売主の相続人らに対して、昭和49年9月不詳売買を原因とする所有権移転登記手続を求める訴訟を提起した。

 被告とされた売主の相続人らは当原書を提出することなく弁論に欠席したので、裁判所は、請求原因事実を自白したものとみなし、原告の主張するとおりの判決を言い渡し、確定した。

 買主は、売主の相続人らに代位して、相続登記の申請をしたが、その際、登記原因証明情報として,①売主の相続人らに係る現存する戸籍・除籍謄本、②一部の除籍謄本が戸籍法施行規則所定の保存期間(80年)の経過により廃棄済みである旨の大阪市の区長の証明書、③本件判決の正本を提供した。

 これに対し、登記官は、必要な登記原因証明情報が提供されていないとして、申請を却下した。

 そこで、買主は、相続登記申請却下処分の取消を求める訴訟を提起した。

関連法令の定め等

 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないが(法60条)、相続による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる(法63条2項)。

ア 権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因証明情報を提供しなければならない(法61条)。法63条2項に規定する相続による権利の移転の登記を申請する場合の登記原因証明情報は、相続を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)及びその他の登記原因を証する情報とされている(令7条1項6号、別表22項)。

イ 令7条1項6号、別表22項所定の登記原因証明情報は、①被相続人が死亡して相続が開始していること、②当該相続による登記の申請人が被相続人の相続人であること、③相続人の相続分が明らかであることに加え、④他に相続人がいないことを証するものでなければならないところ、「他に相続人がいないこと」を証するために提供すべき情報は、原則として、被相続人の15~16歳頃から死亡までの間の連続した戸籍・除籍謄本によるべきものと解されている。

ウ もっとも、登記実務上、保存期間満了による廃棄処分や戦災・震災による焼失等の理由により、戸籍・除籍謄本が提出できない場合には、その旨を記載した市町村長の証明書に加えて、「他に相続人はいない」旨の相続人全員の証明書(印鑑証明書付きのもの。以下、単に「相続人全員の証明書」という。)を提出する取扱いによっても差し支えないものとされている(昭和44年3月3日民事甲第373号民事局長回答・民事月報24巻4号263頁、昭和58年3月2日民三1311民事局第三課長回答・民事月報Vol.38 No.7 170頁)。

エ さらに、登記実務上、確定判決の理由中において甲の相続人は当該相続人らのみである旨の認定がされている場合は、相続人全員の証明書に代えて、当該判決正本の写しを相続を証する書面(登記原因証明情報)として取り扱って差し支えないものとされている(平成11年6月22日民三1259号民事局第三課長回答・民事月報Vol.55 No.7 219頁〔以下「本件回答」という。〕)。登記官は、申請情報が提供されたときは、遅滞なく、申請に関するすべての事項を調査しなければならず(不動産登記規則57条)、法61条の規定により申請情報と併せて提供しなければならないものとされている情報が提供されないときは、登記の申請を却下しなければならない(法25条9号)。

判決の概要(証拠の引用等は省略しています)

1 別件訴訟において、奈良地方裁判所は、別件訴訟被告らにおいて請求原因事実を自白したものとみなして、原告の所有権移転登記手続請求を認容する判決(本件調書判決)を言い渡したものであるところ、上記請求原因中には「Aの相続関係は別紙関係図のとおりである。」旨の事実もある。一般に、共同相続人に対して所有権移転登記手続請求をする場合には、共同相続人全員に対して請求をする意思で訴えを提起するのが提訴者の通常の意思であり、相続人の一部に対して訴えを提起するのであればその旨を明示して行うものと考えられるところ、別件訴訟の請求原因(別紙関係図を含む。)に別件訴訟被告ら以外にAの相続人が存在することをうかがわせるような記載は見当たらないから、「Aの相続関係は別紙関係図のとおりである。」旨の主張は、「Aの相続人は別紙関係図に『相続人』と記載された者のみである。」(本件被代位者との関係では、「Cの相続人は別紙関係図に記載された者〔本件被代位者〕のみである。」)旨の主張を含むものであり、少なくとも黙示的に同事実が主張されているものと解される。

 そうすると、本件調書判決は、その理由中においてCの相続人が本件被代位者のみである旨の認定がされているものということができるから、本件回答に従い、相続人全員の証明書に代えて、その正本の写しを、令7条1項6号、別表22項所定の登記原因証明情報として取り扱って差し支えないものというべきである。

2 被告は、当事者双方が裁判に出席して審理の対象について実質的に争われ、証拠調べ手続が執られた結果、判決の理由中で証拠に基づき「他に相続人がいないこと」が明確に認定されていれば、そのような判決書は戸籍・除籍謄本と同程度の証明力を定型的に有するものと認められるが、擬制自白により認定された調書判決は、被告とされた者が何ら争わず、また、証拠に基づかないまま、原告の主張どおりに被告とされた者の自白が擬制されて請求が認められるという相対的なものにすぎないから、他に相続人が存在する可能性を払拭できず、戸籍・除籍謄本と同程度に定型的証明力を有するものとはいえないことに照らせば、本件回答にいう確定判決とは、その理由中において、証拠(弁論の全趣旨を含む。)に基づいて、他に相続人がいないことが認定されているものに限られ、擬制自白により認定された調書判決はこれに当たらない旨主張する。

 しかしながら、本件回答は、「確定判決の理由中において甲の相続人は当該相続人らのみである旨の認定がされている場合は、相続人全員の証明書に代えて、当該確定判決の正本の写しを相続を証する書面として取り扱って差し支えないものと考えます。」というものであって、上記事実認定が証拠によらずに自白又は擬制自白によってされている場合を特に除外するものではなく、本件回答の解説においても、そのような限定解釈はされていない。そもそも、一般に、当事者の一方が主張する事実の有無について、他方当事者が実質的に争って証拠調べ手続が執られた結果、当該事実が認定された場合の方が、他方当事者が当該事実を自白し又は擬制自白が成立した結果、当該事実が認定された場合よりも、実体的真実により合致する蓋然性が高いなどといった経験則は認められないのであって、「他に相続人がいないこと」についても、自白又は擬制自白(これらは、被相続人と相続人の身分関係を最もよく知り得る立場にある者らの訴訟態度によるものである。)によって同事実が認定された場合の方が、証拠又は弁論の全趣旨によって認定された場合よりも、実体的権利関係に合致する蓋然性が乏しい(すなわち、他に相続人が存在する可能性が高い。)などとは認められない。そうである以上、擬制自白により認定された調書判決についても、戸籍・除籍謄本と同程度に定型的証明力を有すると認められる真正の担保力の高い情報として、令7条1項6号、別表22項所定の登記原因証明情報に当たるものと解するのが相当である。したがって、被告の前記主張は、採用することができない。

4 原告は、本件申請に際し、①Aの相続人らに係る現存する戸籍・除籍謄本、②Cの出生から大正11年12月15日までに係る除籍謄本が保存期間の経過により廃棄済みである旨の大阪市の区長の証明書、③本件調書判決の正本を提供したものであるから、令7条1項6号、別表22項所定の登記原因証明情報を全て提供したものといえる。よって、これが提供されていないとしてされた本件処分は違法である。

コメント

 上記の案件では、確定判決があっても、登記官は、相続登記手続を拒否し、その相続登記申請却下処分の取消を求める訴訟を提起しなくてはなりませんでした。

 このように登記手続は複雑ですので、事前に法務局や司法書士に十分に確認することが必要です。

(弁護士 井上元)

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