養子縁組無効確認の原告適格
被相続人が生前に養子縁組を行うことがありますが、相続人が増えることから、他の相続人の相続分が減少するため、当該養子縁組は無効ではなかとの争いも生じます。
そこで養子縁組無効確認の訴えが提起されることになりますが、身分関係を対世的に確定させる手続であるため、原告適格が制限されています。
最高裁昭和43年12月20日判決・判例タイムズ230号166頁
養親の実子による、養親死亡後の養子縁組無効確認の訴えにつき、訴えの利益を認めました。養親の実子が原告であるから、養親の親族であるという点からも、また養親の死亡による相続分の多寡という点からも、その原告適格を認めうるし、訴の利益を肯定してよいであろうと評されています。
最高裁昭和63年3月1日判決・民集42巻3号157頁
同判決は、養子縁組無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが、当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者はこの訴えにつき法律上の利益を有しないと判断しました。
「養子縁組無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが、当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は右訴えにつき法律上の利益を有しないと解するのが相当である。けだし、養子縁組無効の訴えは養子縁組の届出に係る身分関係が存在しないことを対世的に確認することを目的とするものであるから(人事訴訟手続法26条、18条1項(※現人事訴訟法24条))、養子縁組の無効により、自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない者は、その権利義務に関する限りでの個別的、相対的解決に利害関係を有するものとして、右権利義務に関する限りで縁組の無効を主張すれば足り、それを超えて他人間の身分関係の存否を対世的に確認することに利害関係を有するものではないからである。」
そして、Xは養親Aと伯従母(5親等の血族)、養子Yとは従兄弟(4親等の血族)という身分関係にあるにすぎないのであるから、Xが本件養子縁組の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有しないことは明らかであるとしました。
特別縁故者としての分与
上記最判は、さらに、本件養子縁組が無効であるときはXが民法958条の3第1項のいわゆる特別縁故者として家庭裁判所の審判により養親の相続財産の分与を受ける可能性があるとしても、本件養子縁組が無効であることによりXの身分関係に関する地位が直接影響を受けるものということはできないから、訴えの利益を認めることはできないとしました。
本件で養子縁組が無効となると、養親Aに相続人が存しないことになり、Xは特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性があります。そのための手続としては、Xは、養子縁組無効を理由として相続人の存否不明の場合における相続財産管理人の選任(民法952条)を請求することができ、家庭裁判所は縁組無効の疑いがあると考える場合には、相続財産管理人を選任し、相続財産管理人は、必要に応じ、縁組無効の訴えを提起するという処理になります。
最高裁平成31年3月5日判決・判例タイムズ1460号39頁
事案の概要
事案を簡略化すると次のようになります。
- 養親Aと養子Yとの養子縁組届出がなされた、
- Xは亡A自筆証書遺言により、その相続財産全部の包括遺贈を受けた。
- YはXに対し、遺留分減殺請求訴訟を提起した。
- これに対し、Xは、養親Aと養子Yの養子縁組の無効確認訴訟を提起した。
原審
養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養親の相続人と同一の権利義務を有し、養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどに照らせば、養親の相続に関する法的地位を有するものといえ、養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者に当たる。そうすると、Xは、亡Aの相続財産全部の包括遺贈を受けた者であるから、本件養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有する。
最高裁
最高裁は、次のように述べて、Xは養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえないとしました。
「養子縁組の無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが、当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は上記訴えにつき法律上の利益を有しないと解される(最高裁昭和59年(オ)第236号同63年3月1日第三小法廷判決・民集42巻3号157頁参照)。そして、遺贈は、遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示であるから、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養子から遺留分減殺請求を受けたとしても、当該養子縁組が無効であることにより自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない。
したがって、養子縁組の無効の訴えを提起する者は、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえないと解するのが相当である。」
最高裁昭和63年3月1日判決は「養子縁組の無効により、自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない者は、その権利義務に関する限りでの個別的、相対的解決に利害関係を有するものとして、右権利義務に関する限りで縁組の無効を主張すれば足り、それを超えて他人間の身分関係の存否を対世的に確認することに利害関係を有するものではないからである」としていますので、Xとしては、Yから提起された遺留分減殺請求訴訟のなかで養子縁組の無効を主張することになるものと思われます。
最高裁令和4年6月24日判決・判例時報2547号18頁・判例タイムズ1504号39頁
戸籍上の親子関係不存在確認の訴えについて確認の利益があるとされた事例です。
「前記事実関係等によれば、上告人は、亡C及び亡Dの孫であり、亡Eの戸籍上の甥であって、亡Bの法定相続人であるところ、本件各親子関係が不存在であるとすれば、亡Bの相続において、亡Eの子らは法定相続人とならないことになり、本件各親子関係の存否により上告人の法定相続分に差異が生ずることになる。親子関係の不存在の確認の訴えを提起する者が当該訴えにつき法律上の利益を有するというためには、当該親子関係が不存在であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることを要すると解されるところ(最高裁昭和59年(オ)第236号同63年3月1日第三小法廷判決・民集42巻3号157頁参照)、法定相続人たる地位は身分関係に関するものであって、上告人は、その法定相続分に上記の差異が生ずることにより、自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けるということができる。以上によれば、上告人は、本件訴えにつき法律上の利益を有するというべきである。」
(弁護士 井上元)