カーボン複写方式による自筆証書遺言は有効か?
カーボン紙を用いて記載された場合、自書を言えるか否かについては争いがあります。
この点、最高裁平成5年10月19日判決・判例タイムズ832号78頁は、原審・仙台高裁平成4年1月31日判決・金融・商事判例938号30頁の「カーボン紙を用いることも自書の一つの手段方法と認められるというべきであり~カーボン紙による複写であっても本人の筆跡が残り筆跡鑑定によって真筆かどうかを判定することが可能であって、偽造の危険性はそれほど大きくないことが認められる」との判断を是認しています。
しかし、東京地裁平成9年6月24日判決・判例タイムズ954号224頁は、「カーボン複写により書面が作成された場合、書面に記載者が直接記載する場合に比べて、偽造の可能性が高まるものといえる。特に、第三者が記載者の印鑑の押捺された用紙と記載者作成に係る一定数の文章を入手しているような場合には、それらの文書を利用して、第三者が記載したい内容に沿った文字を選択し、これに基づいて下書きを作成し、これをカーボン紙の上に載せて筆記具で上からなぞる等の方法により、当該記載者の筆跡に似た筆跡の書面を完成させることが可能となる。その場合、筆記具の種類や記載部分の重なりによる筆順が判明せず、また、カーボン複写の場合には特別な筆圧で記載されることから、筆圧の強弱も判明しない。運筆についても、カーボン複写の場合には、複数枚に同時に記載することを意識した運筆となるため、書面に直接記載したものとの対比が困難となる。その結果、これらの相乗作用として、本人の筆跡と当該カーボン複写された筆跡との対比が著しく困難となる。したがって、カーボン複写の方式により遺言書が作成された場合には、筆記具を用いて書面に直接記載された場合に比較して、筆跡が模写されたものであるかどうかの判別が著しく困難となる。」とカーボン紙を用いることの問題点を指摘し、結論として、当該遺言は偽造されたものとしました。
最高裁平成5年10月19日判決により、カーボン複写方式により作成された遺言書も自書の要件自体は満たすことになりますが、東京地裁平成9年6月24日判決のように偽造との争いが生じかねませんので、カーボン複写方式は避けた方が賢明と言えるでしょう。