遺留分放棄許可審判の取り消し
相続開始前に遺留分権利者が遺留分の放棄をするには家庭裁判所の許可審判が必要です。これを無制限に許すと、被相続人や他の共同相続人らの圧迫により遺留分権利者の遺留分をあらかじめ放棄するように強要されるおそれがあるからです。
しかし、遺留分放棄の許可審判がなされた後、遺留分を放棄した状態を維持することが客観的にみて不合理となった場合は、家庭裁判所は、職権で放棄を許可する審判を取り消したり、変更することができます(家事事件手続法78条)。
東京高裁昭和58年9月5日決定・判例時報1094号33頁
同決定は、遺留分放棄審判を取り消さなければならないほどの事情の変更があったとはいえないとしました。
「相続の開始前における遺留分の放棄についての家庭裁判所の許可の審判は、遺留分権利者の真意を確認すると共に、遺留分放棄の合理性、相当性を確保するために家庭裁判所の後見的指導的な作用として合目的性の見地から具体的事情に応じて行われるものであるから、家庭裁判所は、いったん遺留分の事前放棄を許可する審判をした場合であっても、事情の変更によりその審判を存続させておくのが不適当と認められるに至ったときは、これを取り消し、又は変更することが許されるものである。しかしながら、他面、遺留分の事前放棄の許可の審判も、諸般の事情を考慮した上、公権的作用として法律関係の安定を目指すものであるから、遺留分放棄者の恣意によりみだりにその取消し、変更を許すベきものでないことはもとよりである。したがって、遺留分放棄を許可する審判を取り消し、又は変更することが許される事情の変更は、遺留分放棄の合理性、相当性を裏づけていた事情が変化し、これにより遺留分放棄の状態を存続させることが客観的にみて不合理、不相当と認められるに至った場合でなければならないと解すべきである。
これを本件についてみるに、先に引用した原審判認定のとおりXがいったんは連帯保証債務を負担したもののそれが主債務の完済により消滅したことにより、X主張のとおり将来相続財産につき強制執行を受ける不安が解消したとしても、このような不安の解消によって、Xにつき遺留分放棄の状態を存続させることがことさら不合理、不相当と認められるに至ったものとはとうてい考えられない。
先に引用したとおり原審判が、Xにおいて本件許可審判を受けた当時負担していた連帯保証債務が消滅したからといって、右審判を取り消さなければならないほどの事情の変更があったものとはいえないと説示するところは、右に述べた理由からも相当として是認することができるというベきである。」