再転相続と熟慮期間

相続人が相続の承認も放棄もしないで熟慮期間内に死亡した場合には、その者の相続人(再転相続人)が、第1の相続につき放棄・承認の選択をする地位も含めて、死亡した第1の相続人を相続します。これを再転相続と言います。

事例① Aが死亡し、BがAを単独相続した。ところが、A死亡の2ヶ月後に、Bも死亡し、CがBを単独相続した。Bは、生前にAの相続を承認するか、放棄するかにつき、決定していなかった。

事例①では、Cは、Bの地位に代わってAを相続するのではなく、「Aの相続について、相続を承認するか否か」の選択権を含めてBの地位を相続により承継します。その結果、AからBへの相続と、BからCへの相続という連続する2つの相続につき、別々に承認・放棄の選択機会が存在し、かつ、熟慮期間が存在することになります。

熟慮期間内に、Cが、BからCへの相続を放棄した場合、CはAからBへの相続について承認・放棄する余地はなく、Bの相続に関するCの次順位の相続人がAからBへの相続についての選択権を承継します。

熟慮期間内に、Cが、BからCへの相続を承認した場合は、「AからBへの相続を承認するか否か」についての選択の機会がCに与えられます。この場合、第1の相続人であるBにとっての熟慮期間の残余期間が、Cにとっての「AからBへの相続を承認するか否か」を決定するための熟慮期間ではありません。再転相続人Cが自己のために相続の開始があったこと、つまり、「BからCへの相続の開始があったことを知った時」から「AからBへの相続を承認するか否か」についてのCの熟慮期間も起算されます。

Cが、BからCへの相続を単純承認しつつ、AからBへの相続を放棄することもできます。(以上、事例も含め潮見佳男「詳解相続法」弘文堂60頁)。

事例② Aが死亡し、BがAを単独相続した。ところが、A死亡の2ヶ月後に、Bも死亡し、CがBを単独相続した。Bは、生前にAの相続を承認するか、放棄するかにつき、決定していなかった。Cは、まず、Aの相続について放棄をし、その後、Bの相続についても放棄をした。その3ヶ月後、Bに対して売掛金を有していた債権者Xが、Aが所有していた甲土地をBが相続したとして所有権移転登記を代位により経由し、仮差押をした。

事例②では、CがBからCへの相続を放棄した結果として、AからBへの相続についてCがした放棄の意思表示がさかのぼって無効になると解すると、AからBへの相続は民法921条2号で単純承認されたことになり、当該土地はBが相続したことになりますので、Xの仮差押は適法となります。これに対し、AからBへの相続についてCがした放棄は依然として有効であると解すると、Bは甲土地を相続しなかったことになりますので、Xによる仮差押は不適法となります。

この点、最高裁昭和63年6月21日判決・家庭裁判月報41巻9号101頁は次のように述べて、CがBからCへの相続を放棄したとしても、既に再転相続人としての地位に基づいてAからBへの相続につきCがした相続放棄がさかのぼって無効となることはないとしました。

「民法916条の規定は、Aの相続につきその法定相続人であるBが承認又は放棄をしないで死亡した場合には、Bの法定相続人であるCのために、Aの相続についての熟慮期間をBの相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、Aの相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、右のようなCの再転相続人たる地位そのものに基づき、Aの相続とBの相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきである。そうであってみれば、CがBの相続を放棄して、もはやBの権利義務をなんら承継しなくなった場合には、Cは、右の放棄によってBが有していたAの相続についての承認または放棄の選択権を失うことになるのであるから、もはやAの相続につき承認または放棄をすることはできないといわざるをえないが、CがBの相続につき放棄をしていないときは、Aの相続につき放棄をすることができ、かつ、Aの相続につき放棄をしても、それによってはBの相続につき承認または放棄をするのになんら障害にならず、また、その後にCがBの相続につき放棄をしても、Cが先に再転相続人たる地位に基づいてAの相続につきした放棄の効力がさかのぼって無効になることはないものと解するのが相当である。」

事例③ 平成24年6月30日、Aが死亡し、BがAを単独相続した。Bは自己がAの相続人となったことを知らず、Aからの相続について相続放棄することなく、平成24年10月19日、死亡し、CがBを相続した。そうしたところ、Aに対し8000万円の債権(確定判決)を有していたXが、Cに対する承継執行文の付与を受け、平成27年11月11日、Cに送達された。これにより、Cは、BがAの相続人であり、CがBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知って、平成28年2月5日、Aからの相続について相続放棄の申述をし、受理された。

上記の事案で、CによるBのAからの相続放棄が有効か否か争われましたが、最高裁令和元年8月9日判決・民集73巻3号293頁は次のように述べて相続放棄は有効としました。

「⑴ 相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は、相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに当たり、被相続人から相続すべき相続財産につき、積極及び消極の財産の有無、その状況等を調査し、熟慮するための期間である。そして、相続人は、自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ、当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから、民法915条1項本文が熟慮期間の起算点として定める『自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される(最高裁昭和57年(オ)第82号同59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁参照)。

⑵ 民法916条の趣旨は、BがAからの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには、BからAの相続人としての地位を承継したCにおいて、Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて、Cの認識に基づき、Aからの相続に係るCの熟慮期間の起算点を定めることによって、Cに対し、Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。
再転相続人であるCは、自己のためにBからの相続が開始したことを知ったからといって、当然にBがAの相続人であったことを知り得るわけではない。また、Cは、Bからの相続により、Aからの相続について承認又は放棄を選択し得るBの地位を承継してはいるものの、C自身において、BがAの相続人であったことを知らなければ、Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。Cが、BからAの相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず、CのためにBからの相続が開始したことを知ったことをもって、Aからの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、Cに対し、Aからの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。

以上によれば、民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。

なお、Aからの相続に係るCの熟慮期間の起算点について、Bにおいて自己がAの相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは、同条がその適用がある場面につき、『相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したとき』とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである。

⑶ 前記事実関係等によれば、Xは、平成27年11月11日の本件送達により、BからAの相続人としての地位を自己が承継した事実を知ったというのであるから、Aからの相続に係るXの熟慮期間は、本件送達の時から起算される。そうすると、平成28年2月5日に申述がされた本件相続放棄は、熟慮期間内にされたものとして有効である。」

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