特別縁故者に関する裁判例

特別縁故者への財産の分与(民法958条の3)について判断された裁判例を整理しました。どのような場合に認められ、どのような場合に認められなかったか、参考にしてください。

大阪家裁昭和54年4月10日審判・家庭裁判月報34巻3号30頁

被相続人との特別縁故関係が認容されたであろうことは疑いのない被相続人の継母と、被相続人の死後、養子縁組をし、被相続人や養母の祭祀および相続財産の管理を行ってきた者について、特別縁故関係が認められて相続財産全部が分与されました。

岡山家裁備前出張所昭和55年1月29日審判・家庭裁判月報32巻8号103頁

申立人の亡父が、被相続人の特別縁故者に当ることは明らかであるが、およそ、特別縁故者たる地位は一身専属的なもので相続の対象とはならないから、そのことからただちに上記不動産を申立人に分与すべき筋合はない。しかしながら、相続財産分与制度が設けられた趣旨からみると、被相続人と特別縁故者とは相続開始時に共に存在していなければならない(同時存在の原則)と解すべきではなく、本件においては、被相続人の相続が申立人の生前に開始し、従ってその縁故は死後縁故につきるけれども、被相続人と申立人の父親ひいては申立人がさきにみたような関係にあるうえ、分与財産の内容その他記録上窺われる諸般の事情なども併せ考えると、申立人を特別縁故者と認めるのが相当であるとされました。

福島家裁昭和55年2月21日審判・家庭裁判月報32巻5号57頁

路上に行き倒れとなっていた精神薄弱の被相続人を保護して以来18年間にわたり生活資金等を支給して被相続人の療養看護に努めてきた申立人(市)が特別縁故者と認められました。

東京高裁昭和55年4月21日決定・判例時報966号34頁

縁故関係の経緯・内容、相続財産の種類・数額、恩情を受けたと忖度される被相続人の意思、その葬祭等をも主宰しまた本件相続財産の管理にも当たってきた抗告人の尽力その他一切の事情等を総合し、相応の分与が認められました。

横浜家裁小田原支部昭和55年12月26日審判・家庭裁判月報33巻6号43頁

民法第958条の3は、相続人不存在の場合には「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」に対し相続財産を与えることができる旨定めているが、その立法趣旨は、主として遺言制度が充分活用されていない実情に鑑み遺言制度を補充しようとするものであり、条項に例示されている場合のように本来であれば遺言により財産の分与がなされたであろうと思われるような特別の縁故があった者に対し遺言によらないで財産を分与する途を開いたものと解せられるところ、同立法趣旨から考えても、また同条項が「縁故があった者」という文言を用いていることから考えても、同条項にいう「被相続人と特別の縁故があった者」とは、被相続人の生前に被相続人と縁故があつた者に限るものと解すべきって、被相続人の死後に相続財産を事実上管理したり被相続人の祭祀をしたりした者を含むものではないと解するのが相当であるとされました。

東京高裁昭和56年3月31日決定・東京高等裁判所判決時報民事32巻3号80頁

本件記録によれば、抗告人と被相続人との身分関係その他被相続人の養育、本件土地の管理、祭紀の承継等の事実関係については、すべて原審の認定するとおりであることが認められ、抗告人は被相続人の死亡後約30年後に生れた者であることが明らかであるところ、そもそも民法第958条の3の法意は、遺言、遺贈あるいは死因贈与等を補うべきものとして、とりわけ、遺言の利用が必ずしも活発でないわが国情をも勘案して、被相続人の遺志にもかなうベき特別の縁故関係にある者が存する場合には、この者に相続財産を分与しようとするところにあるから、被相続人の死亡後に生れた者は、本来これに該当する余地のない道理であるが、今直ちに、諸般の事情を総合してなお相当と認められる場合には、例外的にかかる者に相続財産を分与することもまた許容されて然るべきものと考える余地が全くないと断ずることには躊躇を感ずるとしつつも、本件では、その先代、先々代はともかく、抗告人と被相続人との関係は、薄く、かつ、遠いものというほかはなく、抗告人をもって例外的に被相続人の特別縁故者に当るものとするにはなお足りないとされました。

東京高裁昭和56年4月28日決定・東京高等裁判所判決時報民事32巻4号103頁

被相続人と重婚的内縁関係にあった者に対し特別縁故者として相続財産を分与することが、公序良俗に反する法律状態の延長ないし継続を認容することとなるとして、その者に対する相続財産分与の申立が却下されました。

大阪家裁昭和57年3月31日審判・家庭裁判月報35巻8号129頁

特別縁故者への財産分与の制度は、遺言による財産処分すなわち遺贈を補充する趣旨のものと解することができるのであり、果されなかった被相続人の生前意思の実現をもその根拠とするものということができるところ、この面よりすると、被相続人は完成された遺言書こそ残さなかったけれども、遺言書作成の過程にあり、被相続人の意思は財産の大部分を母校である申立人○○○○医科大学に寄附し、△△育英基金(仮称)と称する財団を設立して同大学の学生の奨学金の基金として役立てたいとするものであったことが看取できるから、申立人大学は被相続人と特別の縁故がある者と認めるのが相当であるとされました。

東京家裁昭和60年11月19日審判・判例タイムズ575号56頁

「その他の特別縁故者」とは、生計同一者、療養看護者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な交渉があり、相続財産の全部又は一部をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に被相続人と密接な関係があった者をいうと解すべきであるとしたうえで、申立人Aは、被相続人の幼時からその母ともどもよくその面倒を見て、早くに実父を亡くした被相続人の成育を親身になって助け、被相続人の父親代わりの役目を果してきた者であり、被相続人の相続財産の主要部分をなす土地建物の購入についても多大の尽力をしたのみならず、独り暮しを続けている被相続人の身を案じて再三同人に縁談を勧めるなどしていた者であるから、被相続人との関係で上記の「その他の特別縁故者」に該当するものと認めるのが相当である、申立人Bの場合には、幼少時に被相続人と同居し、兄妹同様にして育てられ、成長してからも親族として親しく交渉し、申立人Bにおいて被相続人の母の付添看護をしたりしたことはあったものの、申立人Bが婚姻した後は、被相続人との交渉の程度が薄くなり、時には電話で被相続人の健康状態を尋ねたり、被相続人が入院した際にその見舞に訪れたりしたに過ぎないのであって、交渉の程度は、親族として世間一般に通常見られる程度のものに過ぎないというべきであるから特別縁故者に該当するものと認めることはできないとしました。

東京高裁平成元年8月10日決定・家庭裁判月報42巻1号103頁

被相続人の伯母に当たる抗告人は、北海道A市で商売に失敗し、自己を頼って上京してきたBと被相続人を自宅に住まわせ、一時生計をともにし面倒をみていたほか、以来一貫して、必ずしも恵まれない境遇にあった両名に対し、多額の資金援助をしたり無償で仕事を手伝うなど、通常親族がなし又はなすべき相互扶助の程度を超えて援助、協力してきたものというべきであるから、「被相続人と特別の縁故があった者」に該当するものと解するのが相当としました。

長崎家裁平成2年1月26日審判・家庭裁判月報42巻9号41頁

申立人らはいずれも被相続人と「生計を同じくしていた者」ではなく、被相続人の死の直前老人ホーム転所手続等を行ったにすぎないものであるから、「療養看護に努めた者」にも該当しないことは明らかである、「その他の特別の縁故関係」の有無についてみるに、申立人らはいずれも被相続人の亡妻の親族であって同女の死亡後被相続人と親密な交際があったとは認められず、むしろ疎遠になっていたことが認められ、また、申立人らが被相続人との関係として述べる事情はいずれも親族としての通常の交際の範囲にとどまるものにすぎないし、ただ申立人らの行った被相続人の死の直前から死後に亘る一連の措置については、かなり密接な交渉があったことが認められるが、これらの事実のみをもって、「特別縁故」に該当するとはいえないとされました。

那覇家裁石垣支部平成2年5月30日審判・家庭裁判月報42巻11号61頁

相続人なくして死亡した老人の療養看護に当たった法人格を有しない老人ホームが特別縁故者と認められました。

大阪高裁平成4年3月19日決定・家庭裁判月報45巻2号162頁

抗告人Aにつき、被相続人及び妻Wのいずれとも血縁関係はないが、中学卒業後『○○○○○』の住込店員として被相続人に雇用されて以来、好き嫌いが強く偏屈な被相続人とそのWに親しく仕え、被相続人から受ける給料が通常より低額であるにもかかわらず、Wの病気入院後は店員の仕事のほか被相続人の家事、雑用に従事し、Wの死亡後独り暮らしとなった高齢の被相続人に対し8年以上にわたり住居の世話はもとより炊事、洗濯、食事等の身辺の世話、病気の看護に当たり、被相続人の信頼を受けてその精神的な支えになったほか、被相続人の死後は喪主になって葬儀及び法要を執り行い、原審申立人らから遺骨を要求されて渡した後も自分なりに供養していく態度を示していることに照らすと、抗告人Aの被相続人に対する貢献度は非常に高いというべきであって特別縁故者に該当するとして4000万円を分与し、抗告人Bにつき、従妹Wが長い間被相続人と内縁関係にあり正式な婚姻届けを出すことができなかったため、頼まれて形式的にもせよ同女の養子となって○○家の家督を相続し、Wの入籍を助けたこと、戦中戦後の最も生活困難な時代に被相続人夫婦の生活を援助し、貴重な商品を自分の実家に疎開させて戦災から守り、戦後被相続人が営業再開する基盤造りに貢献したこと、特に戦後の1年間同夫婦を引き取って生活したこと、同夫婦の墓建立のために自分の墓地を提供したこと等に照らすと、抗告人A程ではないにせよ抗告人Bもまた被相続人の特別縁故者ということができるとして2000万円を分与しました。

大阪高裁平成5年3月15日決定・家庭裁判月報46巻7号53頁

抗告人が被相続人(抗告人の父の従兄弟)の生前はその身の回りの世話をしたこと、今後も被相続人及びその親族の祭祀を怠りなく続けていく意向であることが認められ、また相続財産を抗告人に分与することが被相続人の意思にも合致することが推測できるという本件事案においては、抗告人は「被相続人と特別の縁故のあった者」に該当すると解するのが相当であるとしました。

名古屋高裁平成8年7月12日決定・家庭裁判月報48巻11号64頁

Aは、その亡夫が被相続人の伯父に当たるという身分関係にあるが、A自身は被相続人の療養看護に努めたとは認められず、被相続人に対し関わりたくないという態度に終始したものと言え、Aの亡夫については、亡○○や被相続人の生活の面倒をみたり、居住の確保に尽力したりしているので、療養看護に努めた者と評価することができるけれども、特別縁故者たるべき地位は相続の対象とはならないし、亡夫が特別縁故者たるべき地位にあったことをもって、Aが「その他被相続人と特別の縁故があったもの」ということもできないとし、Bは、亡○○生存中から亡○○と被相続人に何かと頼りにされていたが、亡○○の死亡後も、知的に劣り、通常の生活能力を欠く被相続人に対し、近隣の住民が被相続人との関わりを避け、厄介者扱いをしている中で、自らの発意で、被相続人の保護に努め、生活上の援助をし、唯一被相続人の療養看護にも力を貸した者ということができ、被相続人は、Bの指導に素直に従う関係ではなかったものの、Bを頼りとし、もし被相続人が遺言をしたとすれば遺贈の対象となったであろうと思われる者であると言えるから「その他被相続人と特別の縁故があった者」に当たるとしました。

広島高裁平成15年3月28日決定・家庭裁判月報55巻9号60頁

Aについては、その自宅に被相続人を同居させ、家族の協力を得ながら、被相続人を病院に入通院させたり、老人保険施設に入所させたりして、被相続人の死亡までの約14年間その療養看護に尽くしたものであるから特別縁故者に当たるものとし、Bについては「被相続人と生計を同じくしていた者」及び「被相続人の療養看護に努めた者」のいずれかに当たるものと認め得るような事情は見出しがたいとしつつも、しかし、「その他被相続人と特別縁故があった者」とは、「被相続人と生計を同じくしていた者」または「被相続人の療養看護に努めた者」に該当する者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係があった者と解するのが相当であり、その特別縁故の有無については、被相続人の生前における交際の程度、被相続人が精神的・物質的に庇護恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度等の具体的実質的な縁故関係のほか、被相続人との自然的血縁関係をも考慮して決すべきものと解されるとし、本件では、Bは、被相続人とは従兄弟同士の関係にあり、年齢が近いこともあって、被相続人が昭和59年7月ころA方に身を寄せるまでも、父とともに被相続人の相談相手になっていたが、被相続人が○○とともにAに身を寄せてからも、それまでと同様にその財産を含む生活全般について相談にのったり、留守宅の改修及び管理、固定資産税の納付、年金の受給申請、身障害の補装具(義足)の交付申請、老人医療費の支給申請等に関する手続を代行し、被相続人死亡後は所定の年金受給権消滅届出をするとともに、市役所に対し、国民健康保険証等返還の手続等をしてきたことが認められ、これらの事情を考慮すれば、被相続人の相続財産を父方の従兄弟である相手方に分与することは、被相続人の生前の意思にもそうものであることが充分推測できるものであって、Bは「その他被相続人と特別縁故があった者」に該当するものと解するのが相当であるとしました。

そして、相続財産を特別縁故者に分与するに当たっては、家庭裁判所の裁量に委されているところ、家庭裁判所は、被相続人と特別縁故者との縁故関係の厚薄、度合、特別縁故者の年齢、職業等に加えて、相続財産の種類、数額、状況、所在等の記録に現れた一切の事情を考慮して、上記分与すべき財産の種類、数額等を決定すべきものであるが、特別縁故者と認められる者が複数存在する場合には、民法958条の3第1項の規定の趣旨に照らし、具体的、実質的な縁故の濃淡を中心にしてその程度に応じた分与がなされるべきものと解するのが相当であるとし、被相続人を自宅に同居させて以来約19年間もの長期間、家族の協力を得て被相続人の療養、看護に努めてきたAの特別縁故は、Bの被相続人の財産管理を中心とした特別縁故に比べるとこれよりは相当濃密なものであり、その程度の割合は、Aが7、Bが3の程度のものと認めるのが相当であるとしました。

仙台高裁平成15年11月28日決定・家庭裁判月報56巻11号34頁

Aに不動産を、Bらに現金を、それぞれ分与した原審判に対する即時抗告審において、本件不動産の評価額からすると、これをAに全部分与するのは、Bらのうちの1名との関係で不均衡の感は否めず、被相続人の遺志に沿うとも解せないから、本件不動産の分与については、任意の売却の方法(家事審判規則108条の3)を含めた換価方式を検討した上換価し、その代金額と現金額を合わせた全体の遺産の範囲で分与額を再度定めることが必要であるとして、原審判を取り消し、差し戻しました。

広島高裁岡山支部平成18年7月20日決定・家庭裁判月報59巻2号132頁

被相続人の唯一の子であるAが、相続債権者からの際限のない請求を危惧して相続放棄の申述をしたが、相続財産についての清算が終了したので、相続財産分与の申立てをした事案において、Aは被相続人と長年同居し、別居した後も被相続人宅を頻繁に訪れて被相続人の生活を気遣い、入院費を支払うなどの事情が認められることから、Aを特別縁故者と認め、相続財産を分与しました。

鳥取家裁平成20年10月20日審判・家庭裁判月報61巻6号112頁

A(被相続人の又従兄弟の配偶者)からの相続財産分与申立事件について、Aの夫が被相続人の老人ホーム入所の際の身元引受人となっている間はAも相応の協力をしたものと推定され、夫が死亡した後は自ら身元引受人となり身辺の世話をしたほか、被相続人の依頼により任意後見契約を締結するなど被相続人の精神的支えとなっていたことが窺われること、被相続人の死亡後は葬儀や被相続人家の墓守をしていること、被相続人は有効な遺言の方式を備えていないものの、Aに相続財産を包括遺贈する旨のメモ書きを残していることなどを考慮すると、Aは特別縁故者に該当するものと認められるところ、分与額については被相続人のAに対する包括遺贈の意志が確定的なものとなっていたとはいえないこと、Aは被相続人の相続財産の形成、維持に寄与したものではないことを考慮して、預金約2500万円の相続財産のうち、600万円を分与するのが相当であるとしました。

大阪高裁平成20年10月24日決定・家庭裁判月報61巻6号99頁

被相続人の父の妹の孫であるAとその配偶者であるBからの相続財産分与申立事件について、Bは被相続人の老人ホーム入所時の身元保証人や成年後見人となったほか、A、Bらは遠距離にもかかわらず多数回にわたり老人ホームや入院先を訪れて、親身になって被相続人の療養看護や財産管理に尽くしたうえ、相当額の費用を負担して被相続人の葬儀の主宰や供養を行っている事情の下においては、A、Bらは被相続人の通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあり、被相続人からも信頼を寄せられていたものと評価することができるから、特別縁故者に該当するものと認められ、その他一切の事情を考慮すると、動産のほか預金約6283万円の相続財産のうち、Aに対し動産及び500万円を、Bに対し500万円をそれぞれ分与することが相当であるとしました。

さいたま家裁川越支部平成21年3月24日審判・家庭裁判月報62巻3号53頁

Aが、被相続人の入院中その療養看護にかかわり、被相続人の死後その葬儀を主宰したとしても、被相続人の預金を管理中に多額の預金を不当に利得しているという事情に照らすと、Aを被相続人と特別の縁故があった者と認めるのは相当でないとしました。

東京家裁平成24年4月20日審判・判例タイムズ1417号397頁

次のように述べて、遺産総額約1億4000万円のうちAに対して500万円、Bに対して2500万円を分与しました。

「被相続人とE(Aの夫)間では相当程度親密な交流がされ、被相続人は、E生存中は、同人に対して財産の管理処分を任せる意向を有するなどしてEを頼りにしていたことが認められ、Aにおいても主としてEを通じてではあるが、被相続人と親密な交流を継続していたものであると認められる。また、被相続人がEに財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えていたことからすれば、被相続人は、Aに対しても一定程度の経済的利益を享受させる意向を有していたと認められる。これらの事情からすれば、Aにつき特別縁故者に該当すると認めるのが相当である。

もっとも、被相続人とAとの関係は主としてEを通じたものであり、平成18年にEが死亡した後、被相続人とAが会うことはなく、被相続人がAに対してその妻の死亡の事実を伝えず、両者の関係が従前に比べかなり疎遠となり、被相続人が相続権のないAやその長女に対して被相続人の財産を相続させる意向を示したことが窺えず、被相続人とAの縁故関係の内容・程度は比較的薄く、諸般の事情を併せて考慮すると、Aに対する分与額は500万円の限度で認めるのが相当である。」

「Bは、長期にわたり被相続人夫妻と交流を続け、特に平成14年からは、被相続人自宅の鍵を預かり、比較的高い頻度で被相続人自宅を訪問して家事を行い、被相続人の妻の世話を続けたこと、被相続人の妻死亡時には、被相続人とBの2人で密葬をしたこと、被相続人の死亡後、その葬儀に参列はしなかったものの、被相続人の遺骨を○○寺に納骨したことなどからすれば、被相続人とBの関係は、通常の親戚付合いを超えた親密な関係にあったと認められ、また、被相続人がBに財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えていたことからすれば、被相続人は、Bに相当程度の財産を遺す意向を有していたと認められる。これらの事情からすれば、Bにつき、特別縁故者に該当すると認めるのが相当である。

もっとも、被相続人とBの縁故関係の内容・程度は被相続人と生計を同じくするとか、被相続人の療養看護に努めたというものとは一線を画するものであり、諸般の事情を併せて考慮すると、Bに対する分与額は2500万円の限度で認めるのが相当である。」

東京高決平成25年4月8日決定・判例タイムズ1416号114頁

被相続人名義の遺言書を偽造して相続財産を不法に奪取しようとした者に特別縁故者として相続財産を分与することは相当でないとしました。

東京高裁平成26年1月15日決定・判例タイムズ1418号145頁

Aは被相続人の従姉の養子であることが認められるところ、Aは、被相続人との間に本家と分家として親戚づきあいがあり、被相続人に後事を託されたことがある、被相続人の葬祭や供養等を行うため多額の費用を支出した等主張するが、Aが被相続人の生前に、特別の縁故があったといえる程度に被相続人との身分関係及び交流があったということができず、被相続人は婚姻もせず、子もなく、兄弟姉妹も先に亡くなっていることが認められ、また、Aが被相続人の死後に被相続人の法要をし、被相続人宅の庭木と草木の伐採、掃除等をし、そのために一定の労力と費用をかけ、今後もこれを継続する意思を有していることが認められるが、生前の身分関係及び交流に、被相続人の境遇及び被相続人の死後のAの貢献を加えて検討しても、Aの被相続人との生前の交流の程度に鑑みると、Aを被相続人と「特別の縁故があった者」と認めることはできないとしました。

東京高裁平成26年5月21日決定・判例タイムズ1416号108頁

Aは、被相続人の従兄であり、被相続人に代わってDの葬儀を執り行っただけではなく、同人の死後は、同人の依頼に基づいて、自宅に引きこもりがちとなり、周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わり、被相続人宅の害虫駆除作業や建物の修理等の重要な対外的行為を行い、民生委員や近隣と連絡を取り、緊急連絡先としてAの連絡先を伝え、時々は被相続人の安否の確認を行っていたうえ、被相続人の死亡時には遺体の発見に立ち会い、その遺体を引き取り、被相続人の葬儀も執り行ったものであるから、「被相続人と特別の縁故があった者」に該当すると認めるのが相当であるとし、相続財産総額3億7875万円のうち300万円を分与しました。

高松高裁平成26年9月5日決定・金融法務事情2012号88頁

被相続人が、労災事故により首から下の全身麻痺となって長年介護付き施設に入所し、その入所中に死亡した場合において、入所中に親族等との交流もなく、同施設から日常生活につきほぼ全面的な手厚い介護や介助を受けるなどして、満足できる生活状況を維持してきたものと認められることなどからすると、同施設を運営する一般社団法人は、被相続人の療養看護に努めた者として「被相続人と特別の縁故があった者」に当たるとされました。

東京高裁平成27年2月27日決定・判例タイムズ1431号126頁

Aらを特別縁故者と認めるには十分な裏付けがされているとはいい難く、被相続人の特別縁故者と認めるに足りる客観的な事情の存否やその程度等について更に審理を尽くさせるのが相当として、合計9500万円相当の財産の分与を認めた原審判を取り消し、差し戻しました。

札幌家裁滝川支部平成27年9月11日審判・判例タイムズ1425号341頁

被相続人に対して介護予防支援事業契約に基づき予防訪問介護サービスの提供等をした地方公共団体による財産の分与申立につき、次のように述べて却下しました。

「被相続人は、昭和59年に○○市からA市に転居し、平成4年にはA市が設置主体である○○に入居して生活を続け、平成24年○月には、介護予防支援事業契約を締結して、予防訪問介護サービスの提供を受けるようになった。そして、予防訪問介護サービスの提供を受けるに当たり、3か月に1度の割合で利用者宅をケアマネージャーが訪問するのが一般的であったにもかかわらず、被相続人については、本件担当者が、概ね1週間に1度の割合で、被相続人宅を訪問してトラブルの対処や病院への同行といった業務を担っている。このように、被相続人は、定年後、長期間にわたりA市内に居住し、予防訪問介護サービスの提供を受けるようになった平成24年○月からは、本件担当者等により、通常よりも手厚い対応を受けてきたことがそれぞれ認められるのであり、被相続人も、これらの対応に感謝の念を抱いていたであろうことは想像に難くない。

しかしながら、本件担当者の上記業務は、介護保険制度の下で、地方公共団体の事務として介護予防支援事業契約に基づいて実施されたものである。また、予防訪問介護サービス自体は、指定介護予防サービス事業者が派遣したヘルパーが基本的に担当していたものであるし、本件担当者が被相続人の対応に当たっていた期間も約1年半にとどまり、長期間にわたって特別の対応を継続してきたとも言い難い。A市が被相続人の火葬や埋葬を執り行った点についてみても、これらは墓地、埋葬等に関する法律に基づいて行われたものであり、その費用は被相続人の相続財産から支弁されているのであるから、かかる事情をもってA市が特別の負担をしたとみることは困難である。そして、被相続人が、その相続財産を本件担当者や申立人に贈与するとか、遺贈するといった趣旨の話をしたという事情も特段うかがえない。

以上で指摘したところによれば、相続財産管理人の上記意見を踏まえても、A市が被相続人の療養看護に努めた者に当たるとも、被相続人と特別の縁故があった者に当たるとも認めることはできない。」

大阪高裁平成28年3月2日決定・判例時報2310号85頁

①被相続人の身の回りの世話をしてきた近隣在住の知人、②被相続人の成年後見人であり後見人報酬を得ていた4親等の親族について、それぞれ特別縁故者であることを否定した原審判を変更し、各500万円の財産分与を認めました。

高松高裁平成28年4月13日決定・判例秘書

①被相続人の従兄弟であるAにつき、被相続人と長年にわたって親密な交流を続け、Aは被相続人を精神的に援助してきたといえ、被相続人にとっては最も頼れる親族の一人であったと認めることができ、また、Aも、被相続人の入院時には遠方から駆けつけて付き添い、被相続人の死亡後には、親族に連絡するなどして葬儀を実質的に執り行い、その後も、被相続人やその祖先の祭祀を承継すべき者がいなくなったことからこれらの者の永代供養をし、被相続人についても別途、納骨、供養の手続をするなどしており、被相続人に対する思慕の情も強いものと認められること、Aが被相続人の簡易保険の特別終身保険金等として約305万円を受領していること、相続財産の種類や内容、評価額などの事情を総合考慮すると、Aに対しては、相続財産のうち別紙財産目録の預金から1200万円を分与するのが相当であるとし、②Bにつき、平成15年1月の入院から死亡するまで、被相続人が病院に入院したり施設に入所したりするに当たって身元引受人や保証人となったほか、頻繁に被相続人を見舞ったり日用品を買い届けたりしてきたことに加え、被相続人の依頼を受けてその預貯金の管理に当たってきたことなど、被相続人の療養看護に努めてきたことが一応認められるが、Bが、特段の必要性もないのに被相続人の預金から多額の金員を払い戻し、その払戻金をBが現金で保管していたことからすると、Bによる上記の払戻手続は、被相続人から預金の管理を任されたことや、被相続人の身体状態及び精神状態の悪化を利用して、被相続人の預金の払戻金を横領しようとしたものと認めるのが相当であるとし、Bにつき特別縁故者に当たるとして相続財産に分与を認めることは、特別縁故者に対する相続財産分与の制度趣旨に反するものであって相当ではないとしました。

名古屋高裁金沢支部平成28年11月28日決定・判例時報2342号41頁

被相続人が入所していた障害者支援施設を運営する社会福祉法人Aが特別縁故者として認められました。

「被相続人は、昭和55年から平成27年までの約35年間にわたってAの運営する施設に入所していたところ、その間、同施設の職員は、知的障害及び身体障害を有し、意思疎通が困難であった被相続人との間において地道に信頼関係を築くことに努めたうえ、食事、排泄、入浴等の日常的な介助のほか、カラオケ、祭り、買い物等の娯楽に被相続人が参加できるように配慮し、その身体状況が悪化した平成5年以降は、昼夜を問わず頻発するてんかんの発作に対応したり、ほぼ寝たきりとなった平成21年以降は、被相続人を温泉付きの施設に転居させて、専用のリフトや特別浴槽を購入してまで介助に当たるとともに、その死亡後は葬儀や永代供養を行うなどしたのであって、Aは、長年にわたり、被相続人が人間としての尊厳を保ち、なるべく快適な暮らしを送ることのできるように献身的な介護を続けていたものと認められる。このような療養看護は、社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超え、近親者の行う世話に匹敵すべきもの(あるいはそれ以上のもの)といって差し支えない。なお、確かにAの施設利用料は、平成18年までは市町村が負担し、それ以降は利用者負担金として毎月5万円程度を被相続人が負担していたが、これは法令に従い所得に応じて決定された金額であって、国等からの補助金があることを考慮しても、被相続人の介護の内容やその程度に見合うものではなかったといえるし、しかも、このような低廉な利用料の負担で済んだことが被相続人の資産形成に大きく寄与したことは、前記認定のとおりである。これらの事情を総合考慮すれば、Aは、被相続人の療養看護に努めた者として、民法958条の3第1項にいう特別縁故者に当たるというべきであり、精算後残存する被相続人の相続財産は、その全部をAに分与するのが相当であると認められる。」

大阪高裁平成31年2月15日決定・判例タイムズ1470号89頁

身寄りがなく、知的能力が十分ではない被相続人の相続財産(約4120万円)につき、同人の元雇用主Aが相続財産分与の審判を求めた事案で、被相続人が脳梗塞を発症してから死亡するまでの約15年間の支援にのみ着目し、分与額を800万円とする審判をした原審を変更し、Aが被相続人を雇用していた期間(昭和47年~)にも着目し、知的能力が十分でなかった被相続人が4000万円以上もの相続財産を形成・維持することができたのは、Aが約28年間にもわたり、労働の対価を超えて実質的な援助を含んだ給与を支給し続けてきたことや、被相続人を解雇した平成13年以降も緻密な財産管理を継続してきたためであるとして、分与額を2000万円としました。

水戸家審令和4・7・13判時2567号85頁・判タ1508号247頁

地方公共団体の申立てにつき、次のように述べて特別縁故者として認め、4筆の土地を分与しました。

「被相続人の相続財産である本件各土地につき、申立人を特別縁故者と認めてこれを分与すべきか否かにつき、以下検討するに、被相続人は、亡Dの意向を受け継ぎ、本件各土地を長年にわたり地元の公共財産としてその用に供してきており、将来的にも現状が維持されることを望んでいたと認められる。そうすると、申立人は、被相続人の相続財産である本件各土地の維持・管理を通じて、生前、被相続人と密接な交流があり、本件各土地を申立人に分与することが被相続人の意思にも合致するというべきであって、申立人は、「その他被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項)に該当するものと認められる。」

山口家周南支審令和3・3・29判時2527号80頁・判タ1500号241頁

2つの争点について判断しています。

①申立人が申立てに死亡した場合、手続を受継した者に対する分与について

「Jは、令和2年〇月〇日死亡した。そのため、Jの共同相続人(妻及び子ら)である第1事件申立人らは、令和3年〇月〇日、第1事件の手続を受継した。〔なお、このように特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうると解される。ただし、特別縁故者に対する相続財産の分与は、特別縁故者その人に対するものであっても、家庭裁判所が「相当と認めるとき」(民法958条の3第1項)に限り行われるべきものであるから、申立て後、死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても、その相続人に相続財産を分与することの相当性は、被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係、申立て後、死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無、程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって、各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はないというべきである。〕」

②既に民法958条の3第2項の期間を経過した者との間で申立人に対する相続財産分与審判が確定することを停止条件とする贈与契約を締結したことの考慮

「なお、第2事件申立人がL及びQとの間で停止条件付き贈与契約を締結していること(略)は、第2事件申立人が本審判で分与される財産を独り占めするのではなく、被相続人及びその家族との関係が親密であったL及びその妻Qとも分かち合おうとしていることを示すから、分与の相当性をより基礎付けるものといえる。ただし、L及びQは、自身では申立期間内(民法958条の3第2項)に特別縁故者に対する相続財産の分与を申し立てていないから特別縁故者として相続財産の分与を受ける余地がない者であり、第2事件申立人と停止条件付きの贈与契約を結ぶことで、いわば第2事件申立人を介して、申立期間の制限を超えて実質的に相続財産の分与を受けるような結果をもたらすことは申立期間の制限の潜脱となって相当でないから、L及びQと被相続人との間の交流や関係を第2事件申立人のそれと同視したり、第2事件申立人に対する分与にL及びQが期間内に申し立てをすれば分与を受けられたであろう財産の額を上乗せしたりすべきではない。」

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