推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合の遺言全体の効力

 一部の相続人が遺言者の死亡以前に死亡したことにより、同人らにかかる遺言の条項は特段の事情のない限り無効となります(最判平成23・2・22民集65巻2号699頁)。それでは、それ以外の相続人にかかる条項の効力も失われるのでしょうか?

 この問題につき、東京地判令和3・11・25が判断していますのでご紹介します。

東京地判令和3・11・25判時2521号84頁

事案の概要

⑴ 被相続人Aが平成30年5月に死亡し、その相続人は、①長男亡B(平成29年9月死亡)の代襲相続人であるYら、二男X1、三男亡C(平成17年11月死亡)の代襲相続人であるDら、四男であるX2でした。
⑵ Aは、平成2年6月、「Aの財産を、X1、亡C及びX2に相続させる」旨の内容の公正証書遺言を作成していました。
⑶ ところが、亡B及び亡CはAの死亡以前に死亡したことにより、同人らにかかる遺言の条項は無効となりました(最判平成23・2・22民集65巻2号699頁)。
⑷ Xらは、Yら及びその他の相続人を相手方として遺産分割調停を申し立てたところ、Yらは、本件遺言は、亡B及び亡Cにかかる遺言のみならず全部無効であると主張したため調停は不成立となり、Xらは、Yらに対し、Xらが遺言によってAの財産を取得したことの確認を求める訴えを提起しました。

判決内容

判決は次のように判示し、Xらの請求を認めました。

「1 特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり、かかる遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。(最判平成3年4月19日・民集45巻4号477頁)
2 被告らは、平成23年最判を引用し、本件遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人であった亡C及び亡Bが、遺言者である亡Aの死亡以前に死亡したことから、本件遺言が、生存する推定相続人である原告らに関する部分を含めて全部無効となり、その効力を生ずることはないと主張する。

 しかしながら、遺言者が特定の推定相続人に特定の遺産を相続させる旨の遺言をし、当該遺言により遺産の一部を相続させるものとされた複数の推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡したとしても、必ずしも他の生存する推定相続人に特定の遺産を相続させる意思が失われるとはいえず、直ちに当該遺言が全部無効となってその効力を生じないとは認め難い。

 平成23年最判は、遺言により遺産の全部を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合において、死亡した当該推定相続人に関する部分の効力が問題とされたものであるのに対し、本件は、本件遺言により遺産の一部を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合において、本件遺言のうち生存する他の推定相続人に関する部分の効力が問題とされるものであるから、平成23年最判と本件とでは事案を異にするものというべきである。

3 被告らは、遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人の一部が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、推定相続人の人数や属性が変わり、遺言の時点における分配の前提が失われると主張するが、特定の遺産を特定の相続人に相続させる理由には様々なものがあり得るから、必ずしも推定相続人の一部が死亡したからといってその前提が失われるともいえない。

 また、被告らは、不動産を相続する者が流動資産を相続する者の遺留分を侵害し、あるいは、生存する推定相続人が望外の利益を得る一方で、死亡した推定相続人の代襲者が予期せぬ不利益を被ることになるなど、推定相続人間で紛争を生じ、遺言を有効とすることが遺言者の一般的な意思に反すると主張するが、いずれも遺言を有効とすること自体に起因するものといえない。

4 そして、遺言者である亡Aが別段の意思表示をしたなどの事情についての主張立証はない。

 仮に、本件遺言のうち亡C及び亡Bに関する部分が同人らの死亡によって無効になるとしても、原告らに関する部分がこれらを前提としていたとか、これらと不可分の関係にあるなどの事情は認められない。

 かえって、前記前提事実によれば、本件遺言は、その当時において、本件土地1の共有持分を有する亡C及び原告X1に対して亡A持分1を、本件土地2の共有持分を有する原告X2に対して亡A持分2を、それぞれ相続させるものであり(略)、亡Aが、各推定相続人の生活状況、資産、特定の不動産についての関わりあいの有無、程度等の事情を考慮し、不動産の共有関係を複雑なものとしないように配慮した上で、特定の推定相続人に特定の遺産を相続させる意思を有していたことが推認される。そうすると、亡C及び亡Bが亡Aの死亡以前に死亡したとしても、原告らに特定の遺産を相続させる意思は失われないものと考えられる。」

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(弁護士 井上元)

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