意思能力のない相手方と遺産分割する方法
被相続人が死亡し、相続人として長男Aと二男Bがいるものの、Bが認知症等により意思能力がない場合、AはどのようにしてBとの間で遺産分割をすることができるのでしょうか?
成年後見人を選任してもらい遺産分割を行う
成年後見人選任の申立て
既にBに成年後見人Cが選任されている場合、B成年後見人CがBを相続人とする遺産分割を行う法定代理権を有しています。そこで、AはB法定代理人である成年後見人Cとの間で遺産分割を行うことができます。
未だBに成年後見人が選任されていない場合、Aは、家庭裁判所に対し、Bにつき後見人選任の申立てをすることができます(民法7条)。そして、Bの成年後見人にCが選任されれば、上記と同様、AはB法定代理人である成年後見人Cとの間で遺産分割を行うことができます。
遺産分割協議もしくは遺産分割調停申立て
成年後見人CはBの財産管理・処分につき実体法上の権限を有していますので、Aとしては、遺産分割協議書を作成して、B成年後見人Cに署名・押印してもらえば遺産分割協議が成立します。
遺産分割協議がまとまらなければ、Aとしては、相手方をB、その法定代理人を成年後見人Cとして遺産分割調停の申立てを行うことができます。
特別代理人選任の申立てを行う
実体法上の特別代理人
例えば、上記の事例で、AがBの成年後見人に選任されることも有り得ます。この場合、Aは、自己を相続人として行う遺産分割とBの法定代理人Aとして行う遺産分割を兼ねることになりますが、これは利益相反行為に当たります。そこで、Aは、Bのために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません(民法860条、826条)。これを実体法上の特別代理人と言います。
実体法上の特別代理人は、実体法上の遺産分割を行う権限を有していますので遺産分割協議を成立させることもできますし、遺産分割調停等の裁判手続を行うこともできます。
裁判上(訴訟法上)の特別代理人
実体法上の特別代理人に対し、裁判上(訴訟法上)の特別代理人の制度があります。
Bに成年後見人が選任されていない場合において、成年後見人選任に時間を要すれば、家事事件の申立ても遅滞することとなります。そこで、成年被後見人について、法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、家事事件の手続が遅滞することにより損害が生ずるおそれがあるときは、裁判長は、利害関係人の申立てにより又は職権で、特別代理人を選任することができると規定されています(家事事件手続法19条1項。民事訴訟法35条でも同様の規定があります。)。
上記の事例では、AはBの兄で4親等の親族ですから、Bの成年後見人選任の申立てを行う資格を有しています(民法7条)。したがって、Aとしては、まず、Bの成年後見人選任の申立てを行うべきです。ただし、それでは家事事件の手続が遅滞して損害が生ずるおそれがあることの疎明ができれば、特別代理人の選任が認められるかもしれません(家事事件手続法19条2項)。
AがBの4親等以内の親族でない場合、AはBの成年後見人選任の申立てを行う資格を有していませんので、Bについて速やかな成年後見人の選任が期待できなければ、裁判上の特別代理人選任の申立てをすることになると思われます。
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(弁護士 井上元)