相続欠格事由の裁判例

相続欠格事由(民法891条)の裁判例を整理しました。

1号 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者

仙台地裁昭和63年5月31日判決・判例タイムズ678号126頁

債権者から請求された相続人が、被相続人を殺害した者は相続欠格を理由に相続債務を承継していない旨の主張をする適格を有しないとされました。

東京地裁平成20年1月11日判決・判例タイムズ1284号296頁

本件は、原告の経営する医療施設に勤務する医師が、入院患者の気管内チューブを抜き取り、鎮静剤を投与したうえ、筋弛緩剤の注入により、同患者を呼吸筋弛緩に基づく窒息により死亡させたとして、患者の相続人との間で損害賠償の合意をして損害賠償金5000万円を支払った原告が、保険会社である被告との間で締結していた医師賠償責任保険契約に基づき、上記損害賠償金などを保険会社に請求したところ、保険会社は、Aの家族が刑に処せられているわけではなく、相続欠格事由に該当はしないものの、同家族が原告に対して賠償請求をなすことは、信義則違反に該当すると争ったものです。

判決は、原告に対し、Aの相続人として損害賠償請求をすることが、禁反言の原則やクリーン・ハンドの原則により、信義則に反し許されないとまではいうことができないとしました。

「Aの家族が本件抜管をB医師に要請したのは、同家族をあきらめの方向に誘導した嫌いもあるB医師の説明等により、Aの回復をあきらめざるを得ない心境になったことによるやむを得ないものということができるのに対し、B医師の行った行為は、殺人行為であって、その違法性は極めて高いものといわざるを得ない。そうすると、Aの家族がB医師に対して本件抜管を要請したからといって、そのこと自体は相続欠格事由に該当するものでもなく、かかるAの家族が、極めて違法性の高い犯罪行為を行ったB医師を雇用していた原告に対し、Aの相続人として損害賠償請求をすることが、禁反言の原則やクリーン・ハンドの原則により、信義則に反し許されないとまではいうことができない。」

3号 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者

東京地裁平成19年7月12日判決・判例時報1996号51頁

「本件訂正行為が、民法891条3号が規定する詐欺又は強迫によって遺言変更を妨げる行為に当たるとまでは認めがたいし、この段階で有効な遺言は、本件第一遺言ではなく、本件第二遺言であると解し得るから、本件訂正行為は、同条5号に規定する遺言書の破棄にも当たらない。」とされました。

5号 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者

偽造・変造

最高裁昭和56年4月3日判決・民集35巻3号431頁

「民法891条3号ないし5号の趣旨とするところは遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対し相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするにあることにかんがみると、相続に関する被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効である場合又は有効な遺言書についてされている訂正がその方式を欠くために無効である場合に、相続人がその方式を具備させることにより有効な遺言書としての外形又は有効な訂正としての外形を作出する行為は、同条5号にいう遺言書の偽造又は変造にあたるけれども、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で右の行為をしたにすぎないときには、右相続人は同号所定の相続欠格者にはあたらないものと解するのが相当である。」

東京地裁平成9年2月26日判決・判例時報1628号54頁

遺言書の偽造を理由に相続欠格者に該当すると判断されました。

広島高裁平成14年8月27日判決・裁判所HP

公正証書の作成が民法891条5号所定の遺言書の偽造に当たるとされました。

「Xは、Yの本件公正証書の作成が民法891条5号所定の遺言書の偽造に当たると主張するところ、同条は、相続人の非行に対する制裁の制度であり、相続法上不当の利益を得ることを目的として、同条所定の行為を行い、相続法秩序を侵害した者から相続権を剥奪する趣旨の規定であると解される。そうだとすると、被相続人が事理弁識能力を欠き意思表示できない状態にあることを利用して、相続人が発議し、遺言公正証書を作成させたような場合も、民法891条5号所定の遺言書の偽造に当たると解される場合があるというべきである。しかしながら、同号所定の相続欠格者に該当する場合には、当然に相続権が剥奪されるという重大な結果が生じるものであること及び前記のような同条の規定の趣旨にかんがみ、同号所定の行為をした場合において、相続人の同行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、相続権剥奪の制裁を課するに値しないものとして、同相続人は、同号所定の相続欠格者に該当しないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば、Yは、Aの遺言書自体を直接偽造したものではないが、本件公正証書作成当時のAの精神状態は、最高度に障害され、その結果、事理弁識能力を完全に欠如し意思表示をなし得ない状態であったところ、Yは、このような事情を十分認識しつつ、これを利用して、Aの共同相続人の一人であるDに本件遺言土地3筆を取得させることを企図して、本件公正証書の作成を嘱託したものであって、民法891条5号所定の遺言書の偽造に該当すると認めるのが相当である。このようなYの行為は、遺言者の意思を無視し、相続に関して不当な利益を目的とするものであって、相続権剥奪の制裁を課されてもやむを得ない場合に該当し、Yは、同号所定の相続欠格者に該当するものというべきである。」

さいたま地裁平成20年9月24日判決・裁判所HP

被告は相続欠格者であって、原告が唯一の相続人として被相続人の共有持分を相続したと主張する原告の共有持分確認請求訴訟において、被告は、日付の記載のない遺言書に、被相続人の意思に基づかずに日付を記載し、未だ有効に作成されたものとはいえない遺言書を外形を整えて完成させたのであり、民法891条5号にいう変造をした者に当たるとされました。

「本件のような自筆証書遺言は、全文自書することが必要であり、しかも、日付も記載しておくことが要件とされているが(民法968条1項)、遺言書が方式を欠き無効である場合に、相続人が方式を具備させて有効な遺言書又はその訂正としての外形を作出する行為は、民法891条5号にいう遺言書の偽造又は変造に当たるが、それが遺言者の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨でされたにすぎないものであるときは、上記相続人は、同号所定の相続欠格者には当たらないというべきである(最高裁昭和56年4月3日判決・民集35巻3号431頁参照)。

そこで、これを本件についてみるに、上記のように、日付の記載のない遺言書に、相続人が被相続人の意思に基づかずに日付を記載することは、未だ有効に作成されたものとはいえない遺言書を、外形を整えて完成させるものであるから、民法891条5号にいう変造に当たるというべきである。しかし、その変造は、日付の記載という、時的要素を判断する上で重要な記載に関するものであり、単に遺言書の名下に欠けていた印を押すというような行為とは異なるものであるから、それをもって、遺言者の意思を実現させるため、その法形式を整える趣旨でしたものとみることはできない。したがって、被告が本件遺言書に日付を記載した行為は、民法891条5号にいう変造に当たり、被告は、本件相続に関し、相続欠格者に当たるというべきである。」

破棄・隠匿

東京高裁昭和45年3月17日判決・判例タイムズ248号129頁

遺言者からその所有不動産全部の遺贈を受け、遺言者死亡当時当該遺言書を保管していた相続人が、遺留分減殺の請求を受けることをおそれて2年余にわたり他の共同相続人に対し遺言書の存在を秘匿する行為は相続人および受遺者の欠格事由たる遺言書の隠匿に該当するとされました。

大阪高裁昭和61年1月14日判決・判例時報1218号81頁

「民法891条5号にいう相続欠格事由としての遺言書の隠匿とは、故意に遺言書の発見を妨げるような状態におくことを意味し、また、遺言書の意思に反する違法な利得をはかろうとする者に制裁を課することによって遺言者の最終意思を実現させようとする同条の趣旨に照らすと、右隠匿については、隠匿者において遺言の隠匿により相続法上有利となり又は不利になることを妨げる意思に出たことを要すると解するのが相当である。

いま、これを本件についてみると、前記認定のとおり、本件遺言書は公正証書遺言であって、その原本は公証人役場に保管され、遺言書作成に当たって証人として立ち会いその存在を知っているB弁護士が遺言執行者として指定されているのであるから、被控訴人において本件遺言書の存在を他の相続人に公表しないことをもって遺言書の発見を妨げるような状態においたとはいい難く、また、被控訴人は本件土地、建物を自己に遺贈するというAの最終意思を本件遺産分割協議を成立させることにより実現しようとするものにほかならないのであるから、被控訴人が右分割協議に当たり本件遺言書の存在を他の相続人に公表しなかったことにつき、相続法上有利となり又は不利になることを妨げる意思に出たものとも認め難い。したがって、被控訴人の右行為は同条同号にいう相続欠格事由としての遺言書の隠匿には当たらないと解するのが相当である。

控訴人は、被控訴人が本件遺言書によらず協議分割の方法をとろうとしたのは、控訴人ら共同相続人から遺留分減殺請求権を行使されることをおそれ、これを封じ込めることを企図したものであるから遺言書の隠匿に当たると主張するが、協議分割によるときは被控訴人が単独で相続するとの協議が成立しない限り遺留分以上にそれぞれの法定相続分を主張されるおそれがあるのであるから、協議分割の方法をとることにより相続法上有利となり又は不利になることを妨げる意思に出たものといえないことは明らかである。」

神戸地裁平成4年3月27日判決・判例タイムズ801号219頁

本件は、法定相続人のうちXら2名が共同法定相続人であるYら3名に対し、Yらは被相続人Aの遺言書を隠匿したから相続欠格事由があると主張し、YらがAの遺産につき相続権を有しないことの確認を求めた事案です。Xらの主張は、Xら及びYらが弁護士立会いのもとに遺言書を開封して内容を確認した後、Y1がこれを保管し、家庭裁判所の検認を受けないまま、Yらが遣産について持分各5分の1とする共同相続登記を経由したうえ、Xらを相手方として家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたことが、Yらの隠匿行為に該当するというものです。

「民法891条5号に定める相続欠格事由としての遺言書の『隠匿』とは、遺言書の発見を妨げるような状態に置くことであると解されるところ、右一に認定した各事実を総合すると、本件遺言書及び補足遺言書は、既に発見されているし、原告A及びB弁護士の立会いのもとに開封されて、その記載内容が明らかにされているうえ、その写しが、右開封後かなり早い時期から原告A及びその実質的な代理人であるB弁護士の手元に存在していたものと認めるのが相当であるから、被告らが民法891条5号に定める遺言書の隠匿行為をなしたものとはとうてい認め難い。」

最高裁平成6年12月16日判決・判例タイムズ870号105頁

被相続人Aからその子Yが遺言公正証書の正本の保管を託され、Yは遺産分割協議の成立に至るまで法定相続人の1人である姉に対して遺言書の存在と内容を告げなかったが、Aの妻WはAが公正証書によって遺言をしたことを知っており、Wの実家の当主は証人として遺言書の作成に立ち会ったうえ、遺言執行者の指定を受け、また、Yは遺産分割協議の成立前に法定相続人の1人である妹に対して遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を告げたなど判示の事実関係の下においては、Yの行為は、民法891条5号にいう遺言書の隠匿に当たらないとされました。

最高裁平成9年1月28日判決・民集51巻1号184頁

相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に当たらないとされました。

「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条5号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最高裁昭和55年(オ)第596号同56年4月3日第二小法廷判決・民集35巻3号431頁参照)、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条5号の趣旨に沿わないからである。」

千葉地裁八日市場支部平成11年2月17日判決・判例タイムズ1030号251頁

遺言書の執行を妨げるため保管者から遺言者の交付を受けこれを返還することも検認手続の申立てもしなかったときは、遺言書の隠匿に該当するとされました。

大阪高裁平成13年2月27日判決・金融・商事判例1127号30頁

相続人が、被相続人から遺言書を受領して金庫内に保管し、被相続人の死後約10年を経過するまでその検認の手続をしなかったとしても、相続上不当な利益を得る目的に出たものとはいえないときは、同相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に該当しないとされました。

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