代償分割・換価分割と譲渡所得税の帰属

遺産分割協議の後に遺産を譲渡したことによる譲渡所得税の帰属につき争いとなった事案があります。遺産分割と譲渡所得税の問題が端的に現れており、参考になると思いますのでご紹介します。

横浜地裁平成3年10月30日判決・判例時報1440号66頁

事案の概要

① Aが死亡し、後妻のW(相続分2分の1)と先妻との間の子B、C、D、E(相続分各8分の1)の5名が相続人となった。

② 亡Aの遺産には借地権があったところ、W、B、C、D、Eは、借地権につ下記のような遺産分割協議を行った。

     記

Bは借地権を5億4000万円で他に売却し、その代金を諸経費(合計9000万円)に充てたうえ、Wに1億5000万円、Cに7000万円、Dに7000万円、Eに9000万円をそれぞれ支払い、残額7000万円をBが自ら取得する。

③ 税務署長Yは、「本件分割協議においては、共同相続した本件借地権を売却してその代金を共同相続人間でほぼ法定相続分に近い割合で分配するという換価分割の合意が成立し、その合意に基づき、Bが売却を実行して、その譲渡代金が共同相続人に配分されたものであるから、本件借地権の譲渡による所得は、その配分額に応じて各相続人にそれぞれ帰属するというべきである。」との見解により、Wに対し、譲渡所得税5008万円等の賦課決定をした。

④ Wは、「本件分割協議において、Bから1億5000万円の支払を受けることになったが、これは、本件借地権をBの単独取得としたことに対する代償金であって、本件借地権を他に売却したことによる譲渡代金の分配金ではない。したがって、本件借地権の売却につき、原告に譲渡所得が発生する余地は全くない。」との見解により、賦課決定の取消しを求めた。

判決の内容

判決は、次のように述べて、賦課決定は適法であるとしました。

代償分割と換価分割

「代償分割とは、遺産の全部又は一部を現物で共同相続人中の一人又は一部の者に取得させ、その代わりに、取得者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる分割方法をいう。この場合には、その後当該遺産を処分するか否か、その時期・内容等はすべて取得者の自由に決定しうるところであり、これを譲渡することによって得られる所得は、取得者のみに帰属し、譲渡所得に対する所得税は、同人が負担すべきものである。代償金を支払うために当該遺産を処分する場合も、事情は変わらない。

これに対して、換価分割とは、共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、まずこれを未分割の状態で換価し、その対価として得られる金銭を共同相続人間で分割する方法をいう。この場合に遺産を処分するのは、形式上は共同相続人中の特定の者が代表してその名で行うこともあろうが、実質的には共同相続人全員であり、したがって、当該譲渡所得は全員に帰属し、これに対する所得税は全員が負担すべきことになる。」

代償分割と解すべきWに有利な事実

「本件分割協議書は、物件目録において分割の対象とすべき遺産を15項目にわたって掲げているが、価値的にみて圧倒的に重要なのは本件借地権のみであり、他は殆んど取るに足りない程度のものに過ぎないところ、第3項において、Bが本件借地権及びその地上建物等を単独で取得する旨定め、第2項には、原告らその余の相続人は、電話加入権等若干の遺産を取得するほか、遺産に対するすべての権利を放棄するものとし、その代償として、BがWに1億5000万円、Cに7000万円、Dに7000万円、Eに9000万円をそれぞれ支払う旨の規定がある。

したがって、これらの規定だけを取り上げ、その文理を重視すれば、本件共同相続人らは、一見代償分割をしたかのように考えられる。」

換価分割と解すべき事実

分割協議に至る経緯に加え、次のような事情を指摘しました。

「本件借地権を5億4000万円で譲渡した場合、これにかかる所得税は換算で2億円であり、これに地方税も合算すると、約2億6000万円にのぼるところ、Bが本件遺産分割で実質的に取得するのは7000万円に過ぎないから、同人が右所得税等を全額負担することになれば、所得税だけを考えても1億3000万円、地方税も含めれば2億円近い持ち出しになる。」

結論

「Bが本件分割協議に際してなした意思表示を合理的に解釈すれば、○○○の各事実の存在にもかかわらず、それは、単に内心的な効果意思のレベルにおいてのみならず、表示行為の客観的な意義においても、Bが遺産たる本件借地権を単独で取得し、その代わりに、他の共同相続人に対して代償金支払債務を負担するというものではなく、遺産共有の状態にある本件借地権を換価して、その代金を共同相続人間で分割するという趣旨のものであると解するのが相当である。

そうすると、本件分割協議におけるWやC及びDの意思表示が代償分割の趣旨のものであるとすれば、関係者は全員本件分割協議が成立したと認識しているにもかかわらず、結局協議は成立していない(いわゆる無意識の不合意)といわざるをえず、また、同人らの意思表示が客観的には換価分割の趣旨に理解できるのであれば、錯誤による無効が問題になりえよう。

しかしながら、いずれにしても、代償分割の合意が有効に成立していない限り、換価分割の合意が有効に成立した場合は勿論、遺産分割協議か不成立ないし無効の場合においても、本件借地権が遺産共有の状態で譲渡されたことに変わりはない。そして本件借地権の譲渡による所得は、本件分割協議により換価分割の合意が有効に成立したのであれば、それが定める配分額に応じて、遺産分割協議が不成立ないし無効であれば、法定相続分に応じて、それぞれ各相続人に帰属するものというべきである。」

コメント

上記の案件で、当該遺産分割協議が代償分割とされれば、Bは所得税・地方税で2億円近い持ち出しになり、アンバランスであることは明らかです。控訴審の東京高裁平成4年7月27日判決、上告審の最高裁平成5年4月6日判決も支持しました。

遺産分割の後、物件を取得した者が譲渡しないのであれば、このような問題は起こりませんが、譲渡する場合には譲渡所得税の帰属の問題が生じますので、十二分に注意する必要があります。

また、遺言を作成する場合も、同様に、譲渡所得税の点に配慮すべきです。

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