葬儀費用は誰が負担するのか?

相続が発生した後、遺産分割に際して、葬儀費用の負担をめぐって争いとなることもあります。多くの事案では、相続人の1人が「自分が葬儀費用を支払ったから、相続財産からその分を取得できるはずだ」と主張するのです。

遺産分割調停においては、相応の葬儀費用であれば、相続財産から支払われることにつき合意されることが多いものと思われますが、相続人間における対立が先鋭化すると、このような合意も難しくなり、法律上、誰が葬儀費用を負担すべきかが問題となるのです。

葬儀費用

葬儀費用とは?

葬式費用とは、死者をとむらうのに直接必要な儀式費用であり、法事、石碑建立等の費用は葬儀費用には含まれないと解されています。

裁判例

東京地裁昭和61年1月28日判決・判例タイムズ623号148頁

「葬式費用とは、死者をとむらうのに直接必要な儀式費用をいうものと解するのが相当であるから、これには、棺柩その他葬具・葬式場設営・読経・火葬の費用、人夫の給料、墓地の代価、墓標の費用等が含まれるのみであって、法要等の法事、石碑建立等の費用は、これに含まれないと解する。そうすると、~通夜と告別式の費用のうち~寿司、料理、酒、ジュース、菓子等の各飲食代金~四九日法要、納骨代、葬儀後見舞客食費、その他の支払~は、少なくとも、右にいう葬式費用には含まれないものといわなければならない。」

名古屋高裁平成24年3月29日判決・判例秘書

「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解される」

葬儀費用の負担者

誰が葬儀費用を負担すべきかについては、①共同相続人全員で負担するとする見解、②相続財産が負担するとする見解、③喪主の負担とする見解、④慣習ないし条理によるとする見解、⑤相当な費用は相続人の共同負担であるがそれ以上の支出は喪主の負担とする見解などがあります。

確定的な見解はなく、葬儀の主宰者は誰だったか、主宰者が単独で葬儀内容を決定し手配したのか、他の相続人との協議のうえ葬儀内容を決定し手配したのか、主宰者以外の相続人は香典を支払ったか否か、などの事情により決することになりそうです。

裁判例

東京地裁昭和61年1月28日判決・判例タイムズ623号148頁

「葬式は、死者をとむらうために行われるのであるが、これを実施、挙行するのは、あくまでも、死者ではなく、遺族等の、死者に所縁ある者である。したがって、死者が生前に自已の葬式に関する債務を負担していた等特別な場合は除き、葬式費用をもつて、相続債務とみることは相当ではない。そして、必ずしも、相続人が葬式を実施するとは限らないし、他の者がその意思により、相続人を排除して行うこともある。また、相続人に葬式を実施する法的義務があるということもできない。したがって、葬式を行う者が常に相続人であるとして、他の者が相続人を排除して行った葬式についても、相続人であるという理由のみで、葬式費用は、当然に、相続人が負担すべきであると解することはできない。

こうしてみると、葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担するのが相当であるというべきである。そして、葬式を実施した者とは、葬式を主宰した者、すなわち、一般的には、喪主を指すというべきであるが、単に、遺族等の意向を受けて、喪主の席に座っただけの形式的なそれではなく、自己の責任と計算において、葬式を準備し、手配等して挙行した実質的な葬式主宰者を指すというのが自然であり、一般の社会観念にも合致するというべきである。したがって、喪主が右のように形式的なものにすぎない場合は、実質的な葬式主宰者が自己の債務として、葬式費用を負担するというべきである。すなわち、葬式の主宰者として、葬式を実施する場合、葬儀社等に対し、葬式に関する諸手続を依頼し、これに要する費用を交渉・決定し、かつ、これを負担する意思を表示するのは、右主宰者だからである。そうすると、特別の事情がない限り、主宰者が自らその債務を葬儀社等に対し、負担したものというべきであって、葬儀社等との間に、何らの債務負担行為をしていない者が特段の事情もなく、これを負担すると解することは、相当ではない。したがつて、葬式主宰者と他の者との間に、特別の合意があるとか、葬式主宰者が義務なくして他の者のために葬式を行った等の特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、葬儀社等に対して、債務を負担した者が葬式費用を自らの債務として負担すべきこととなる。」

東京地裁平成6年1月17日判決・判例タイムズ870号248頁

「葬儀費用を誰が負担すべきかという問題については、一般的に確立された社会通念や法的見解は未だないようであるが、葬儀の主宰者=喪主(喪主が形式的なものにすぎない場合は、実質的な葬儀の主宰者)が負担する例が多いのではないかと思われるし(労働基準法80条、国家公務員災害補償法18条が、『葬祭を行う者に対して』、それぞれ葬祭料を支払い、葬祭補償を支給するとしていることは、私人間における葬儀費用の負担についても参考とされるべきであろう。なお、香典も、喪主が取得するのが通常であろう)、相続人の葬式費用については、相続税法13条1項2号により、これを負担した相続人の相続財産の価額からの控除が認められていることもあってか、相続人の一人又は数人の負担とされる場合もあるようである。この問題については、右のような点を参考に、当該地域や親族間の慣習を考慮して、条理に照して判断するほかないと思われるが、いずれにせよ、単に被葬者の扶養義務者であったことや最も親等の近い血族であったことだけで、葬儀費用の負担者とされることは通常ないと思われるし、そうすることが合理的であるという理由も見当たらない。」

神戸家裁平成11年4月30日審判・家庭裁判月報51巻10号135頁

葬儀は、死者を弔うために行われるものであるがこれを実施挙行するのはあくまでも死者ではなく遺族等の死者に所縁のあるものであることからすれば、葬儀の費用は相続債務と見るべきではなく、葬儀を自己の責任と計算において手配等して挙行した者(原則として喪主)の負担となると解すべきとされました。

津地裁平成14年7月26日判決・判例秘書

相続人でない者が葬儀費用を負担した場合において、相続人は、条理上、葬儀及び納骨などの諸費用のうち死者を弔うのに直接必要な儀式費用を相続分に応じて分担すべきであるとされました。

東京地裁平成14年12月13日判決・判例秘書

①葬儀費用とは、通夜、葬儀の費用をいい、墓地の建築費用、仏壇仏具の費用を含まないものと理解されている、②葬儀費用の負担については、葬儀を主宰する者(喪主)がその支払をするのが通常であり、相続人であることから当然にその葬儀費用を負担する義務があると解することはできないとされました。

東京地裁平成18年10月19日判決・判例秘書

Aの葬儀は、東京で行われた後、長野で納骨が行われたが、東京の葬儀は、原告らの同意のもと、被告が喪主となって、執り行われたこと、長野での納骨は、原告が喪主として執り行われたが、このことに被告も反対せず、被告やBが参加していることが認められ、これらの事実によれば、本件葬儀費用は相続人らが負担するものと解するのが相当であるとされました。

名古屋高裁平成24年3月29日判決・判例秘書

「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。なぜならば、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり、他方、遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので、その管理、処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」

葬儀費用に関するその他の裁判例

東京地裁昭和59年7月12日判決・判例タイムズ542号243頁

死者に対する葬式は、社会生活における慣習として当然営まれるべきものであり、いわば死者の社会生活の延長若しくは跡始末の性格を有することや、民法306条、309条1項が死者の身分に応じてなされた葬式の費用につき相続財産に対する先取特権を認めた趣旨等を考慮すると、本件のように相続人全員が相続放棄をした場合に、被相続人の生前の社会的地位に応じた葬式費用は、これを相続財産の負担として、同財産中から支弁することも許容されるものと解するのが相当であるとされました。

東京地裁平成16年11月30日判決・判例秘書

「亡Aの相続に関する相続税申告書に、葬儀費用の負担者として被告Y1の名前が記載されていることが認められるが、相続税の申告書における記載から直ちに葬儀費用の実体的な負担者が定まるものではないところ、葬儀費用を被告Y1が一人で負担することになったことについての証拠はなく、かえって、被告Y1の本人尋問の結果によれば、上記葬儀費用の申告書の記載は、税理士から言われて便宜上なされたものと認められるから、その支払を求める原告の請求は理由がない。」

葬儀費用に該当しないもの

法要等の法事、石碑建立等の費用は葬儀費用には含まれないと解されており、これらの儀式の主宰者が負担すべきことになります。

裁判例

東京地裁昭和61年1月28日判決・判例タイムズ623号148頁

「法要等の法事、石碑建立等の費用は、これに含まれないと解する。」

東京地裁平成14年12月13日判決・判例秘書

「葬儀費用に含まれない、墓地、仏壇等の費用は、これを所有し、祭事を主催する者の負担となることはいうまでもない。」

名古屋高裁平成24年3月29日判決・判例秘書

「埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である」

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